第84回選抜高校野球(3月21日開幕、甲子園)の出場校が27日、大阪市内で開かれた選抜選考委員会で決定し、オホーツクにある小さな町の小さな学校が春、夏通じ初の甲子園出場を決めた。21世紀枠で創部58年目の女満別(めまんべつ、北海道)が選出された。生徒数は132人、部員数も19人しかいないが、昨秋の全道大会では最速145キロ右腕の二階堂誠治投手(2年)を擁して16強入り。冬は氷点下20度を下回ることも珍しくない環境下でも屋外での練習を続け、小規模校のハンディを克服した。組み合わせ抽選会は3月15日に行われる。

 午後3時すぎ。流氷接岸間近のオホーツク海にほど近い、人口約8000人の町に吉報が届いた。ソワソワしながら6時限目の授業を受けていた女満別ナインが、終わって正面玄関に出ると、父母たちから祝福を受けた。家庭科の授業を受けていた主将、平田悠人捕手(2年)は「うれしい、でも6時限目の授業は本当に長かった」と顔をくしゃくしゃにして喜んだ。

 この日午前7時で、学校のある網走郡大空町はマイナス20・8度と冷え込んだ。全校生徒はわずか132人、野球部員も19人と決して多くない小規模校が、21世紀枠の切符をつかんだ。周囲の模範となる日ごろのあいさつなどに取り組んできたが、大きな夢の実現にはエース二階堂誠治(2年)の存在が大きかった。

 美幌中時代に中体連の北海道大会で優勝した投手が、遠軽中監督時代に実績を残した鈴木収監督(43)を慕い10年4月に入部。他の地区の私立強豪に進学するケースが多いが、兄の僚(3年)を追いかけ同じ地区の高校を選んだ。右上手から投じられる直球は最速145キロ。その速球とスライダーのコンビネーションとテンポのいい投球で道内の強豪校を次々と撃破した。昨夏の北北海道大会は、甲子園まであと2勝と迫る4強に導いた。昨秋の北海道大会1回戦では函館工相手に8回まで無安打。9回1安打完封&17奪三振の快投で16強に入り、甲子園につなげた。

 大黒柱の二階堂は「自分の真っすぐが全国でどれだけ通用するか楽しみ」と声を弾ませた。この冬場はタイヤ引きや走り込みで下半身を鍛えている。176センチ、72キロは変わらないが「(腰回りは)太くなった気がします」。05年に就任した鈴木監督は「(二階堂は)夏秋と悔しい思いをした分、考えて練習をしています。関節が柔らかく柔軟性があり、性格も前向きで投手向き」と高く評価する。

 女満別がある大空町は網走市の隣にある小さな町で、年々過疎化が進んでいる。そんな逆風とも言える環境でチームが強くなっていった。冬場は雪上練習は当たり前、氷点下のグラウンドを整備し、スパイクを履いて紅白戦も行う。寒さ、雪、少ない部員、すべてを前向きに考えた。北海道地区からの21世紀枠での代表は、02年鵡川以来。寒さを吹き飛ばす女満別の春が始まった。【中尾猛】

 ◆女満別高

 1951年(昭26)創立の道立校、全日制普通科のみで生徒数は132人(うち女子53人)。野球部は54年創部、北海道大会出場は春1、夏2、秋2度、甲子園は未出場。部員数は19人(1年5人、2年14人)。部活動は野球部のほか陸上、バレーボール、バスケットボール、サッカー部などがある。主な卒業生には漫画家の岩原裕二らがいる。所在地は大空町女満別昭和104の1。田中禅校長。