<高校野球東東京大会:芝3-2江戸川>◇6日◇1回戦◇江戸川区球場

 プロ注目の芝・田中裕貴投手(3年)は、2失点完投で昨夏8強の江戸川を撃破。打っても自ら決勝タイムリーを放った。

 115球目は、自慢の直球で決めた。1点リードの9回2死一塁。秀才軍団・芝を引っ張る188センチの長身左腕田中が、目いっぱい腕を振る。右飛に打ち取り、ハニカミながら、歓喜の輪の中心に立った。

 エース兼4番の大黒柱として、昨夏8強の江戸川を1点差で破った。「前半はストレートが上ずってましたが、後半は低めに投げられました」と喜んだ。角度のある直球とスライダーを軸に、9回9安打2失点で粘り、7回には決勝の左前適時打を放った。

 東京・芝公園にある中高一貫の進学校。グラウンドは全面ラバーで、土はない。ノックも打撃もすべてトレーニングシューズで行い、マウンドは三角形の木を置いて、急造の傾斜をつくる。投球練習だって、スパイクは履けない。

 こんな環境で成長した最速140キロの大型左腕を、昨秋から在京球団を中心に複数球団のスカウトが視察した。1日10合の食事で、体重は昨秋から10キロ増の87キロにビルドアップ。伸びしろ十分のプロ注目投手だが、心に決めた夢がある。

 「東大で野球がやってみたいです。ずっと負けているので、連敗を止められたらって思っています」

 東大は現在東京6大学リーグワーストを更新する76連敗中。入学すれば一躍、救世主候補になる田中は、昨年8月には東大の練習会に参加していた。「球場が広くて、ここでやってみたいと思いました」。

 もちろん夢を実現するためには、日本最難関の受験が待っている。中学時代は偏差値66で、現在も野球を続けながら、学年約300人中50位前後をキープする。得意な教科は数学。今日7日からは期末試験が始まり、「どっちも頑張ります」と笑った。夢は大きく、たくましく。野球も勉強も、志を高く持って、前に進んでいく。【前田祐輔】

 ◆田中裕貴(たなか・ゆうき)1996年(平8)4月30日、静岡・浜松市生まれ。小3から野球を始め、芝中では同校の硬式野球部所属。芝では1年夏からベンチ入り。好きな投手はカブス藤川、ヤンキース田中。変化球はスライダー、カーブ。家族は両親、兄。188センチ、87キロ。左投げ左打ち。

 ◆芝

 1906年(明39)創立の私立校。野球部は47年に創部。部員数は1年5人、2年12人、3年10人の計27人。過去最高成績は03年、04年の5回戦。中高一貫校で、今年は現役7人を含む計11人が東大に合格した。早大は145人、慶大は102人(ともに総数)が合格。主なOBは写真家・篠山紀信、作家・北方謙三。所在地は港区芝公園3の5の37。春日利比古校長。