世間にさまざまな流行り廃りがあるように、メジャーにも流行りがあり、その移り変わりはときに非常に極端だ。

 最近のメジャーの目立ったトレンドといえば「ロン毛」。ざっと名前を挙げてみると、ドジャースのジャスティン・ターナー内野手、ジャイアンツのブランドン・クロフォード内野手やジェフ・サマージャ投手、レッドソックスの指名打者ハンリー・ラミレス、メッツのノア・シンダーガード投手と、個性的なロン毛選手が何人もいる。

 ところが、このロン毛トレンドにも変化が起こってきた。野手ではまだ長髪にしている選手が多いが、投手では自慢のロンヘアにきっぱり別れを告げ、極度な短髪にする選手が増えている。

 ジャイアンツのマディソン・バムガーナー投手も、ロン毛がトレードマークと呼ばれるてきた1人だが、今はすっかり短髪になった。最初にロン毛を短くしたのは16年の開幕前のことだったが、この2月、それをさらに短髪にした。何があったのか。本人は「ただ切っただけ。裏に何か深いわけがあるということではないよ。長い髪はもう飽きたから切ったのさ」と、深い意味がないことを強調していた。

 しかしそうはいっても、やはり何か理由があるのではないかと思っていると、はっきり理由を明かしてくれる投手が現れた。柔らかいウエーブがかかったロン毛がトレードマークだったメッツのジェイコブ・デグロム投手だ。昨季までロン毛を続けてきたが、シーズン終了後にその髪を短く切り別人のようになった。

 デグロムが髪を伸ばし始めたのはマイナーリーグ時代で、最初は験担ぎのようなものだった。「髪を切ると、敵に点を与えてしまったような気分になった。それで切るのをやめた」と、数年前に明かしている。メジャーに昇格した14年以降も髪を伸ばし続け、メジャーの投手の中では屈指の長さになり、柔らかい髪質なのでふわふわと派手に揺れ動いた。デグロムはその髪について「打者に対して、球の出どころを髪で隠せる」と、ロン毛の効能を説いていたこともあった。それが突然、短髪に変身したため、周囲は驚いた。

 なぜ切ったのか。デグロムは「実はいろいろとリサーチをした結果、短髪は投球モーション時の腕の振りを速め、球速が2マイル(約3キロ)上がると分かったからだよ」という。どのようなリサーチだったのかは分からないが、確かにロン毛は腕を振るときにまとわりついて邪魔になりそうではある。今年はドジャースのエース左腕クレイトン・カーショーもかなりの短髪にしてキャンプに臨んでおり、これだけ球界屈指のエースたちが短髪に変身していると、それがまた新たなトレンドになる可能性もありそうだ。

【水次祥子】(ニッカンスポーツ・コム/MLBコラム「書かなかった取材ノート」)