<ア・リーグ優勝決定シリーズ:レッドソックス5-2タイガース>◇19日(日本時間20日)◇第6戦◇フェンウェイパーク

 速球の威力はスピードガンだけでは測れない。米メディアの調査によると、レッドソックス上原浩治投手(38)の速球は平均89・2マイル(約144キロ)とメジャーのクローザーの中で2番目に遅い。だが、打者のバットは差し込まれ空を切る。なぜか。

 レ軍ニエベス投手コーチ

 バックスイングが小さく素早い。コロン(アスレチックス)と同じような動きで、タイミングが取りにくく振り遅れてしまう。

 かつて在籍したオリオールズのバック・ショーウォルター監督は、上原の切れ味を「シャープなナイフ」と表現した。また、一緒にプレーし、対戦経験もあるオ軍の4番アダム・ジョーンズは、速球が「ライズ(浮き上がる)する」と言う。

 ジョーンズ

 速球は見にくく、88、89マイルでも浮き上がるから93~94マイルのように感じる。しかもスプリットがあって制球力が抜群だからね。

 上原の速球は、メジャーで主流の動く球ではなくフォーシームだ。それでも打ちにくい理由について、昨季まで在籍したレンジャーズのマダックス投手コーチは投球フォームを挙げた。

 マダックス投手コーチ

 彼の速球は高い位置でリリースされ、打者の手元で沈まず、さらに浮き上がる。スプリットと速球の腕の振りが同じでテークバックが小さい。球種が少なくても成功しているのは、あの投球フォームがすべてだ。

 上原の速球はリリースした瞬間、「プチッ」という音がするという声もある。絶妙のタイミングで右手首を返し、ボールが離れる直前にさらに指先で球を押し込むテクニックが、数字では表せない「キレ」と「回転」を生むと考えられる。

 レ軍サルタラマッキア捕手

 高低を使うのがすばらしくうまい。構えたミットから、ほとんどズレない。スプリットがあるから、90マイルでも速く見える。僕はあまり頭が良くないから(笑い)、科学的なボールの回転数などは分からない。ただ、棒球にならず、横にブレることもない。小さく速いフォームで、ジャンプするように投げるからタイミングが取りにくい。あの動きで両コーナー、高低にピタリと来るんだから打者にとってはタフだろう。

 証言に共通するのが「浮き上がる軌道」「出どころの見にくさ」「フォークと同じ腕の振り」「精密な制球力」。上原の完成されたフォームと高等技術が「89マイルの快速球」を生み出したといえる。