マーリンズ入りが秒読みとなっているイチロー外野手(41=ヤンキースFA)が、古巣オリックスの新人選手に向けて出血大サービスの「イチロー講座」を開いた。21日、自主トレ中のほっともっと神戸であいさつを受けるとフリー打撃を披露。さらに野手3選手に自らのバットで打たせ、キャッチボールまで行った。異例の大盤振る舞いで、将来の有望株に貴重な財産を残した。

 「はじめまして、イチローです」-。直立不動で並ぶオリックス新人に“先生”はこう呼びかけ、室内練習場での臨時講座がスタートした。まずは1人ずつ自己紹介してきた新人いじりだ。緊張のあまり小声だったドラフト1位の山崎福也投手(22=明大)には「腹から声を出せ」とツッコミ。同2位の宗(むね)佑磨内野手(18=横浜隼人)には、ムネリンこと川崎宗則(ブルージェイズとマイナー契約)が重なったのか「ムネじゃん!」と笑い、場の雰囲気を和ませた。

 続いて打撃投手の球を、お手本とばかりにはじき返す。ここまでならオリックス新人が毎年経験してきた光景だが、ここから先が異例だった。「じゃあムネ、行ってみようか」と、宗にフリー打撃を促したのだ。使わせたバットと手袋は自らの使用品。緊張しっぱなしだった宗の15スイングを見届けたイチローは「いいねえ。柔らかい」とスイングの柔軟性を評価した。同7位西野真弘内野手(24=JR東日本)と同8位小田裕也外野手(25=日本生命)にも同じように打たせ、納得したかのように笑みを振りまいた。くしくも野手3人はイチローと同じ右投げ左打ちだった。

 昨年末、オリックスの本屋敷俊介トレーニング兼コンディショニングコーチ(39)から新人あいさつの打診があり了承。同コーチは「目の前で打たせたのは初めてだと思う。記憶にない。彼らはラッキーです。(イチローは)超、機嫌が良かったですから」と明かした。イチローは注目される去就が秒読み段階。マーリンズ球団公式サイトは複数年契約も検討していると伝えた。ワールドシリーズ制覇に加え、あと156本に迫るメジャー通算3000安打を見据える今季。進む道が見えてきたことで、イチローの心に余裕が生まれたのかもしれない。

 フリー打撃では力の入ったスイングで快音を響かせ、ここまでの調整が順調に進んでいることをうかがわせた。そして新人で唯一の外野手である小田を、キャッチボール相手にサプライズ指名。予告なしでカーブやスライダーを投げる遊び心も植え付けた。「また会えたら会おう」。最後も格好良く手を振り、約40分間に及んだ濃密なレッスンを終えた。【大池和幸】