メジャーから8年ぶりに復帰した広島の黒田博樹投手(40)が、開幕カードのヤクルトを完全制圧した。日本球界復帰後初実戦は、4回1/3をわずか39球、時間にして13分足らずの軽快ピッチで完全投球。打者の手元で微妙に動かす変化球でコーナーと高低をつく職人技だった。オープン戦ながらマツダスタジアムに詰めかけた2万2942人のファンが酔いしれた。

 1回をわずか5球、1分50秒で終えると、2回以降も2分50秒、3分31秒、3分5秒とヤクルト打線を手玉に取った。最終イニングの5回は打者1人に対し、1分35秒。黒田の日本球界復帰後初登板はわずか12分51秒で幕を下ろした。濃密な黒田劇場の序章に、マツダスタジアムはスタンディングオベーションによる拍手と大歓声に包まれた。

 予定の3回では球数が少なすぎ、4番畠山までの2巡目まで続投。その39球には黒田の全てが凝縮されていた。立ち上がりから遊び球はない。

 「気持ちよく投げられた。いろいろ考えずにストライクゾーンで勝負して打者にプレッシャーをかけていければ」

 打者13人中11人に初球ストライクから入った。全39球中、ボール球は9球。打者の手元で動く球種を内外角だけでなく高低に投げ分け、変化の大きいスライダーやスプリットを織り交ぜた。さらに最速145キロとの差を含めれば、まさに3次元の投球。4回には左打者の藤井を追い込んで得意の内角ボールゾーンからストライクゾーンに曲がるツーシームで見逃し三振を奪った。「別に変化しなくてボールになってもいい球ですが、打者からすると難しい球じゃないかな」。変幻自在の投球だった。

 登板までの準備も独特だった。正午開始の試合に合わせチーム練習は8時15分からだったが、黒田だけ9時に球場入り。「当然そうやれば責任が自分にかかるけれど、自分の投球にベストであればそっちの方がいい」。米国仕込みの調整法が好投につながった。

 試合では日本流にアジャストした。米国ではマウンドでの投球練習は8球あるが、日本では5球に制限される。そのためイニング間のキャッチボールで肩を作った。万全を期した復帰後初登板で球場全体を制圧。スタンディングオベーションにボールを投げ入れて応えた右腕は「久しぶりに広島に帰ってきて、たくさんの声援をもらって本当に気持ち良く投球ができた」と振り返った。黒田劇場は序章にすぎない。ただ、新たな伝説誕生の期待が高まる幕開けとなった。【前原淳】

 広島緒方監督(8年ぶり復帰登板の黒田に)「鳥肌が立つくらい素晴らしかった。言うことはない。あの頃のイメージより、一回りも。いやいや、一回りどころじゃないな。二回りも大きくなった姿だった。彼は米国でどれだけの経験を積んできたんだろうと。あらためてそう思わされる投球だった」