アカンっ、やられた…。逆転ホームランの覚悟を決めた瞬間、打球はフェンス直撃止まり。右翼の阪神福留孝介外野手(37)が仕掛けた超ファインプレーが窮地を救った。8回1死一、二塁、川端の右翼への大飛球に捕球体勢に入るふり。二塁走者を惑わせ、中継した送球で本塁アウトに仕留めた。名手のトリックプレー、お見事!

 まるで時間が止まったかのようだった。1点差の8回1死一、二塁、川端の痛烈な打球が右翼を襲った。虎党の悲鳴が上がる。やられた-。だれもが思った。だがなぜか、右翼福留は捕球体勢に入っていた。自信満々に前を向いていた。捕れるのか? 二塁走者荒木も、 一塁走者山田も動きを止めた。ベンチも、スタンドも、だれもが思考を止めた。これが福留の仕掛けたトリックだった。

 一瞬の後、打球は福留のはるか頭上を通過した。フェイクに気付いた荒木があわてて走りだした時、福留はすでにフェンスの跳ね返りを捕球しようとしていた。白球はすぐさま上本、梅野に転送され、本塁タッチアウト-。普通なら本塁は完全にセーフだが、走者を足止めした福留のトリックが本来なら埋まるはずのない時間を埋めてしまった。

 福留 打った瞬間、自分の守備位置と打球で届かないと思った。練習中に打球を追いながら、この(打球の)高さならとか考えている。昨日、今日初めてやる球場じゃないし、何回もやっているわけだから。

 あぜんとする荒木、沸き返る虎党と三塁ベンチ、それらを尻目に福留は平然としていた。走者をワナにはめる「フェイク」は昨季も7月の巨人戦で披露した。年に1回、決まるか、決まらないかのプレー。それでも常に球場ごとのフェンスの高さ、打球の勢いなどをイメージして練習に臨んでいるからこその超美技だった。ゴールデングラブ4度受賞、9年ぶりの獲得を本気で狙っている名手の意地だった。

 和田監督 あれはビッグプレー。孝介しかできないプレーだよな。あそこを防いだのが大きいよ。ベンチから見ても捕ったと思った。それくらいのプレー。

 指揮官も勝利をもぎ取ったベテランの妙技を激賞した。同点とされれば今季初先発岩本の勝ちが消え、セットアッパー松田が責任を背負うところだった。

 福留 岩本がいい投球をしていたし、遼馬も頑張っていたから。何とかできてよかった。記者席から見ても捕ると思った? 記者もだませたならよかったよ。

 必死に投げる若手投手を救った歴戦の男は、いたずらっぽく笑った。くしくも4月1日、エープリルフールに飛び出した美しく鮮やかな「ウソ」が猛虎の勝利を決めた。【鈴木忠平】