ヤクルト先発の小川泰弘投手(24)が、8回1/3を3安打1失点(自責0)で、今季2勝目を挙げた。7回1死まで全打者を凡退させるパーフェクト投球だったが、20人目の白崎に右安打を許した。完全試合を逃しても、崩れずに117球の熱投。オフの自主トレをともにする大先輩・レッドソックス上原浩治投手(40)の助言を胸に、堂々たる投球を披露した。チームは、中日を勝率で上回り、12年5月7日以来の単独首位に浮上した。

 心に、ほんの少しの余裕があった。小川の93球目。ついに完全試合への道は断たれた。白崎に右前打を許した。観衆のため息にも、マウンドに立つ小さな大投手には聞こえていなかった。7回1死まで、全て凡退に切る完全投球。「5回くらいから意識しましたけど、狙ってできるものではないですし」と動じなかった。

 終始、落ち着いていた。今季初めて立った9回。準完全の可能性が残っていた。だが、先頭関根、1死で石川と2本のヒットを浴び、味方の失策も絡み失点。ただ「打者を1人、1人、観察できた」。最速147キロの直球を軸に、カットボールで攻略した。警戒していた筒香には、内角低めのカットボールで揺さぶった。セ・リーグ本塁打トップで、6本塁打をマークしているロペスには、内外角へ変化球で翻弄(ほんろう)。「力まずに腕を振れて直球で押すことができた」と納得顔だった。

 打席でも冷静だった。1点リードした6回2死一、三塁からは、自ら中前適時打をマーク。「昨日の夜からイメージしていた通り」。投打で存在感を示した。

 大エースの言葉を胸に刻んでいた。春季キャンプ中、左脇腹を痛めた。キャンプ中の実戦を回避せざるをえなかった。エースとしての気負いが焦りを生じさせた。心の支えになったのは、尊敬する上原からのたった一言のメールだった。

 「頑張りすぎるな」

 キャンプ中、何度も送られてくる文字を読み返した。小川は「余裕を作れということだと思います。もちろん最低限の練習は必要だけど、無理のしすぎは何も意味がなくなると考えさせられた」。たった一言だが、心を落ち着かせてくれた。いかなる状況でも、余裕を持つ-。練習、試合…。雑念を取り払い、自分の投球だけに集中した。

 試合後のお立ち台では、「今年はピッチャーで引っ張っていけるようにしたい。けがをせずに、チームの優勝に貢献していきたい」と胸を張った。圧倒的な存在感でチームを2連勝へ導いた。3年ぶりの単独首位。雨が降りしきる神宮球場で、エースとしての落ち着きをまとった小川が、ひときわ大きく見えた。【栗田尚樹】