か~がやき~ながら、奪首! 阪神が広島に快勝し、貯金1ながら4月4日以来の首位に浮上した。延長12回ドローの総力戦から一夜明け、長野から北陸新幹線「かがやき」で富山へ移動。疲れも見せず初回から広島を攻め込んだ。名物ホタルイカばりに富山の夜に輝いたのは5番マートン。猛打賞を2号ダメ押しソロで決め、和田豊監督(52)を喜ばせた。

 長いトンネルを抜ける日が近づいてきた。そんな気配をプンプンと漂わせる、ひと振りだった。すさまじい弾道が瞬く間に富山アルペンスタジアムの左翼席に突き刺さる。これだ。この一撃こそ、マートンの本領だ。5点リードの5回2死走者なし。若き左腕、飯田の2球目は不用意な球だった。外角高めチェンジアップをたたきつぶす。「すごく感触が良かった。これまでのシーズンになかった感じだね」と笑顔を見せた。

 ありふれたソロアーチではない。大量点を奪って勝負は決まりかけていたが、優勝を目指すチームにとって何よりも心強い2号本塁打だろう。この日、広島を倒し、4月4日以来の首位に立った。和田監督は「(いまは)代わることもあるけど、代わらないよう頑張るだけ」と冷静に受け止める。大勝負はまだ先だ。それでも、助っ人の復調は、チームの浮沈に直結するだけに明るい兆しだろう。

 この日、2回に右前へミートし、4回には引っ張って左前へ。いずれもファーストストライクをとらえ、自身の間合いで打てている証拠だ。「我慢しながら、辛抱強くやってきた成果が出た。バット、手の軌道がフィットして打てている。野球は人生と同じさ。いいときも悪いときもある。去年の形と同じように続けたい」。20日ヤクルト戦(甲子園)が15年初アーチ。今季254打席目での本塁打は来日6年目でもっとも遅い。ここから、わずか2試合を挟んで2発目。確実に覚醒の時が近づいている。

 すべての歯車が狂ったのは2月だ。キャンプイン直後に右太もも裏を痛めて別メニュー。調整は遅れ、繊細な打撃技術にも影を落とした。関係者は「下半身で振り込む、自分の形を作れないまま開幕を迎えてしまった」と説明。昨季首位打者が打撃不振に陥り、球審の判定に不満をあらわにした。スタメン落ちも経験。それでも腐らない。前日23日は1回、次打者席に入る直前、いきなり短くダッシュ。仰天の光景だが、なりふり構わず、体のキレを生もうと必死になっていた。

 「仲間」にささげる白星だった。11年6月27日、遠征中の富山で渡辺長助チーフスコアラーが54歳で急逝した。あれから4年がたった。この場所で戦う意味は何か。和田監督は言う。「ここに来ると長さんのことを思い出す。いろんな意味で、いい試合を見せられて喜んでくれていると思う」。この日、曇り空で外野後方の立山連峰は見えなかった。そう簡単には姿を見せない頂を目指し、戦う男たちの気概が光った。【酒井俊作】

 ▼阪神が5月25日時点にあった最大7ゲーム差をひっくり返し、4月4日以来の首位に立った。今季は開幕3連勝発進も、5月9日には6位へ転落。阪神が1シーズンで単独首位→単独最下位→単独首位は04年以来、11年ぶり。04年は4月10日単独首位→同15日単独最下位→5月3日単独首位→6月9日単独最下位と、1位から6位に2度転落して最終的に4位だったが、今年はどうなるか。

 ▼阪神は68試合を戦い、34勝33敗1分け。阪神がこれまで最も多く試合を消化した時点の「貯金1首位」は29試合目で、04年5月7日に巨人と15勝14敗で同率(昨年までのプロ野球最長)。今回これを大幅に更新した。

 ▼マートンは地方球場で28試合に出場し、通算116打数44安打で打率3割7分9厘、4本塁打、24打点。ノーヒットに終わったのは4試合で、13年5月11日の松山(ヤクルト戦)から12試合連続安打を継続中。猛打賞も6度目となった。とりわけ富山での3試合で5割8分3厘と、圧倒的な強さを誇る。また今季、能見先発の試合で3割4分8厘(46打数16安打)。他の先発投手では2割3分4厘で、相性の良さは際立つ。