西武秋山翔吾外野手(27)がプロ野球界の頂に並んだ。オリックス戦でプロ初の5安打の固め打ちで94年イチローが樹立した日本人最多のシーズン210安打を一気に更新。10年の阪神マートンが持つ歴代最多の214本に追いついた。今季27度目の猛打賞も10年のロッテ西岡(現阪神)のプロ野球記録に並んだ。4位ロッテと0・5ゲーム差の激戦の中、CS進出へ付加価値の高い4打点の活躍。最高の勢いに乗ってレギュラーシーズン最終戦の今日1日のオリックス戦で、プロ野球記録に堂々と挑む。

 秋山が21年前のイチローの残像に並び、超えた。初回先頭。オリックス東明の外角直球を美しいスイング軌道を描き、三塁線を射抜いた。シーズン210安打目。日本人の頂を極めた記録に、ついに追いついた。

 「CSに残らなければ記録を達成しても何の意味もない」。勝利に直結するヒットにしたい。思いは211本目にも表れた。2回2死二、三塁。真ん中低めのフォークに反応し、右翼フェンス直撃の三塁打で当時20歳だった不世出の天才打者のヒット数を抜いた。

 イチローの世界に突入し、一気に頂点に並んだ。第4、5打席と安打を重ね、8回、右翼線への適時二塁打でマートンの214安打に到達した。「プロ野球記録に並んだのは、うれしいし光栄です。偉大な先輩の名前の上にあるのは信じられない」。9月28日のロッテ戦後は達観していた。「残り2試合で(新記録へ)6本は現実的ではないでしょう」。一方で微調整は重ねていた。25日の練習では打席の立ち位置をベースから約5センチ遠ざけた。「外の球に対応しようとしすぎた」。現状を顧みて、自らの力で奇跡を起こしつつある。

 ともに現役選手だが、同じグラウンドに立ったことのないイチローの背中は大きすぎた。当時の野球少年なら誰もがマネた振り子打法。秋山には記憶がない。「遊びでもマネしちゃいけないんじゃないか、と幼心に思った。あこがれを超えて、触れてはいけないような」。崇高な存在だった。

 今年、神聖な打者と比較されることになった。驚異的な安打ペースは終盤まで近似値を描いた。「イチロー超え」と紙面の見出しが並ぶことに強い違和感を覚えた。「そうやって名前が出ることが申し訳ない気がする」。イチローの210安打は130試合制。時代とともに増え、今年は143試合制を戦う。「比較対象にならない」。記録として公平に比べられない。

 だが年間に210本以上のヒットをつむぐことの難しさは自身も含め、3人しか知らない。異論を挟む者は誰もいない。海を渡ったイチローを超えてはいない。それでも秋山がその世界に触れたことは、まぎれもない真実だ。そして今日、新たな領域を切り開く。【広重竜太郎】

 ▼秋山がプロ入り初めて1試合5安打を放ち、今季通算214安打。10年マートン(阪神)がマークしたシーズン最多安打のプロ野球記録に並び、94年イチロー(オリックス)の210本を上回るパ・リーグ新記録となった。シーズン27度目の猛打賞も10年西岡(ロッテ)に並ぶプロ野球記録。214安打は日本人選手として、また左打者で最多になり、内野安打(17本)を除いた安打数197本も10年マートンの195本を抜いて史上最も多い。