執念の143球だ。ロッテ涌井秀章投手(29)が日本ハム打線を6回1/3、8安打1失点に抑えた。1勝1敗で迎えた「2015 SMBC日興証券 クライマックスシリーズ パ」(CS)ファーストステージ(S)第3戦で勝利し、チームに2年ぶりのファイナルS進出をもたらした。序盤のピンチでは珍しくガッツポーズを連発。気迫を前面に押し出し、エースの仕事を全うした。

 土俵際からが、涌井だった。1-1の3回。日本ハム打線につかまりかけた。連打と四球で無死満塁。「最悪、1点はいい」と冷静だった。狙いを変えたのは、近藤を投ゴロで1死を奪ってから。「絶対に0で。もう1つ、ギアを上げる」とネジを締め直した。

 レアードを追い込み、5球目はアウトローへ143キロフォーク。際どかったが、判定はボール。天を仰いだ。深呼吸する。ファウルを挟み7球目。再びアウトローのフォークで、空を切らせた。グラブをたたく。続く矢野は二飛。打球の行方を見ることなく、力いっぱいガッツポーズ。「叫んでないですよ」は照れ隠しか。ポーカーフェースが常だ。「自然とですね。めったにああいうこと、しないけど」と本音が漏れた。

 涌井は、いつ投げるのか。7日に札幌入りしてからも判然としなかった。15勝目を挙げた前日6日に137球。最多勝の代償だった。ただ、回復具合を聞かれても「(中3日で10日の)第1戦でいけます」と真顔で言い続けた。冗談にも聞こえなかった。夏場に走って蓄えたスタミナがある。何より「気持ちがあれば、体は動く」と言い切る心がある。調整はウエートの負荷を少し落としただけで、ほぼ同じだった。最終的には中4日から1日延びて中5日。「最終戦であれだけ投げさせてもらって、なおかつ1日、空けてくれた。万全な状態。期待に応えてやろうという気持ち」と使命を分かっていた。

 初回先頭。陽のゴロで一塁カバーに走った際、ずっこけた。「空回りした」のは気持ちの表れだった。移籍2年目。大一番で仕事を果たし「去年、打たれても使い続けてくれた。恩返しになる」と安堵(あんど)した。次は、ソフトバンク。強い。だが、ロッテには涌井がいる。【古川真弥】

 ▼涌井が7回1死まで143球を投げて勝利投手。涌井のCS勝利は西武時代の08年以来通算3勝目。2球団で白星は豊田(西・巨)ホールトン(ソ・巨)杉内(ソ・巨)馬原(ソ・オ)中田(中・ソ)に次いで6人目。プレーオフ、CSで140球以上は05年1S第1戦松坂(西武=142球)以来。松坂は勝敗がつかず、勝利投手となったのは80年第1戦で163球完投の井本(近鉄)以来35年ぶり5人目、04年以降では初めて。