ヒーローになり損ねた。広島田中広輔内野手(26)は、巨人田口から自身3度目となる先頭打者本塁打を放った。首位攻防第1ラウンド。ゴングとともに痛烈な先制パンチを浴びせたが、4回には適時失策から流れを失い、逆転負け。チームは首位の座から陥落した。悔しさは今日にぶつければいい。落ち込んでる暇はない。

 野球の神様のいたずらか-。4回だった。規則的にはねるはずの人工芝で打球がわずかにはねた。捕球体勢に入っていた田中は反応できず、グラブの土手で打球をはじいた。点差は2点から1点。リードはまだある。だが、なおも2死一、三塁。満員の敵地の空気は一変し、村田の同点打につながった。

 「イレギュラーはあった。でも、止めて前に落とせば良かった。あそこで悔やんでも試合は続くので、気持ちを切り替えた」。だが2-2のまま迎えた8回、ジョンソンが力尽きた。

 ヒーローになるはずだった。3連勝で東京ドームに乗り込んだ勢いのまま、田中がいきなり痛烈な一撃を打ち込んだ。プレーボール直後の初球スライダーを狙っていた。高く舞い上がった打球は左翼席へ。「初球に変化球が来るというデータと傾向があった。決めた球を思い切って行けた」。先頭打者弾は自身3度目も、初球で記録したのはプロ入り初だった。

 今季は初球に強い。試合前まで17打数10安打で打率5割8分8厘。カウント別では最高打率だった。また第1打席の打率は4割4分だった。試合前の準備が高い集中力を生んでいる。試合前のティー打撃は素手でバットを握り、繊細な感覚を研ぎ澄ましている。

 1つのミスが逆転負けのほころびを生み、暗転した。背番号2が、誰よりも悔しい思いを胸に刻んだ。緒方監督は「巨人相手に接戦で勝てなかったという結果がものすごく悔しい」と言葉を吐いた。わずか2日で2位転落の順位以上に、惜敗が重くのしかかる。昨季(15勝)10敗はすべて3点差以内。1点差敗戦は8試合に上る。今季も巨人戦4連敗すべて1点差敗戦だ。

 だが、好調の打線は8安打2本塁打と反発力を失っていない。田中も「明日(4日)も試合があるので頑張りたい」と決して下を向かなかった。状態は維持できている。切り込み隊長が打線を引っ張り、今日こそ野球の神様を振り返らせる。【前原淳】