2月1日は、プロ野球選手の心の強さが試される1日だろう。鋭さ、速さ、力強さ…。2カ月半に及ぶオフの自主トレの成果が問われるからだ。昨年、新人王に輝いた高山俊が、沖縄の青空にすさまじい弾道をかけていた。ライナーは失速せず、フェンスに直撃する。体勢を崩されても、大きな弧を描いて柵越えする。慢心などない。胸には悔しさを抱き続けているのだ。

 勝負に対する強烈な執着心に触れたのは昨季の終盤だ。広島がリーグ制覇した直後だった。「ユーチューブを見ていたら、真っ先にランキングで胴上げシーンが出てくるんですよね。でも、絶対に見ません。だって悔しいじゃないですか」とボソッと言ったことがある。普段、試合では感情をあらわにしないだけに、なおさら心根が際立つ。チームは昨季4位。ルーキーでも勝敗を背負い、主力としての道を歩んでいる証拠だろう。

 オフも恐怖心に突き動かされ、鍛錬を重ねた。「休むのが怖い。自分はレギュラーだと思っていません。打てなければ試合に出られなくなる。2、3年、結果を残さないとレギュラーと言えません」。打球はウソをつかない。キャンプ初日の特打では、外角球に泳ぎながらも、右翼へオーバーフェンス。「去年、本塁打が少なかったのは『完璧な本塁打』しかなかったからです。ちょっと泳がされても、芯を食う打球でした。全体的に力が増したと思います」。昨季は8本塁打。目標の20発に向けて、まずは上々の滑り出しだろう。

 スピード&パワーが進化のキーワードだ。その道筋を照らしてくれるのは、かつての主砲だった。金本監督から「体重が増えても動けるやろ? 俺は91キロのときが、一番、走れていた」と聞いて大きくうなずく。掛布2軍監督には「ホームランを打たないとダメだ」と言われ、志を高く持つ。近い将来、首位打者を狙える素材だと評されるが、自身が目指すべき姿は定まっていないという。スラッガーか、ヒットマンか。自ら型にハマった時点で限界が見える。昨季のようなドアスイングは消え、体に巻きつくように振っていた。成長ぶりをまるで予測できない。いまは「器」をひたすら広げていく季節である。

 ◆酒井俊作(さかい・しゅんさく)1979年(昭54)、鹿児島県生まれの京都市育ち。早大大学院から03年に入社し、阪神担当で2度の優勝を見届ける。広島担当3年間をへて再び虎番へ。昨年11月から遊軍。今年でプロ野球取材15年目に入る。趣味は韓流ドラマ、温泉巡り。

 ◆ツイッターのアカウントは@shunsakai89