40歳の広島新井貴浩内野手が、ホームスチールで決勝点を奪った。2回2死一、三塁の場面。打者石原への3球目で、一塁走者の安部がスタートを切る。ウエストを選択していたヤクルト・バッテリーにスキが生まれた。捕手中村は中途半端な緩い送球。投手小川はマウンドでかがみ込んだ。新井は情報を瞬時に処理。行くと決めた。ワンバウンド送球を二塁手山田が捕球した直後に、左手でホームベースを払っていた。

 「河田コーチの指示通りに動いただけです。こうなったら、こうだよ。というのを事前に言ってくれていた。勇気もあるけど、それが一番大きかった」

 仕掛ける2球前。三塁に新井が到達すると、河田コーチは新井に耳打ちした。「詳しくは企業秘密」とはぐらかしたが、あらかじめ出ていた傾向の確認とみられる。カットプレーの種類や、挟殺のルールなどが頭に入り、新井は迷いなくスタートを切れた。河田コーチは本拠地試合では毎朝11時にはスコアラー室にこもり、2カード先のチームまで研究。頭に詰め込んだ情報を伝え、お家芸とも言える重盗を導き出した。

 新井は「足が速い、遅いは関係ない。どれだけ意識して次の塁を狙うか。機動力を使うのがカープの野球」と胸を張る。キャンプ中から石原とともに、河田コーチに「遠慮なく言ってください。抜いていたり、物足りなかったら怒ってもらって構わない」とベテラン特権を“返上”。引っ張られるように、機動力野球は復活した。

 アグレッシブな40歳が演出した広島らしい決勝点で、引き分けを挟んで6連勝。3カード連続の勝ち越しを決め、巨人に並んで首位に浮上した。緒方監督は「いい戦いが出来ている。また明日うちの野球をやるだけです」。17年も、広島野球は健在だ。【池本泰尚】

 ◆新井の本盗 00年9月13日中日戦、15年9月2日阪神戦に次いで3度目。15年は1点を追う4回2死一、三塁で、岩田の一塁けん制がそれると判断してスタートを切り生還。同点に追いついた。「ライト側にそれるのが見えた。ファースト(のゴメス)は投げにくい」。本盗で流れが変わり5-1で勝利。首位阪神に3・5ゲーム差と迫った。

 ▼40歳の広島新井が本盗。40歳以上の選手が本盗を決めたのは73年、当時40歳のアルトマン(ロッテ)が8月15日南海戦の5回にマークして以来44年ぶり。本盗に限らず広島で40歳以上の選手が盗塁を記録したのは、87年衣笠祥雄、09年緒方孝市(各2個)に次いで3人目。