凱旋(がいせん)白星はならずも、試合はつくった。地元宮城出身の楽天岸孝之投手(32)がKoboパーク宮城で移籍後初登板。球団史上最高の2万7165人のファンを沸かせた。2本塁打を浴びて6回3失点でマウンドを降りたが、打線の粘りで負けはつかず。地元での再スタートの1歩目は、思い出に残るサヨナラ勝ちとなった。

 岸は真っ先にベンチを飛び出していた。延長10回、サヨナラ安打を放った聖沢のもとへ駆け寄ると、われ先にと祝福のウオーターシャワーを浴びせた。「今日はいいところを見せたいと思っていたけど…。チームが勝って良かった」。降板直後の曇った表情は笑顔に変わっていた。

 舞台は整っていた。球場近くの榴ケ岡公園の桜は満開で、ぽかぽか陽気のデーゲーム。移籍後初の凱旋登板もあいまって、球団史上最高の2万7165人のファンがつめかけた。「ほどよい緊張感。球場全体を見渡して励みになりました」。1、2回を簡単に3人ずつで終え、滑り出しは上々だった。

 しかし、ささいな制球ミスが雲行きを怪しくする。4回レアードに甘く入ったスライダーを左翼席に打ち込まれると、5回には大野にも1発を浴びる。「レアードの前の四球(近藤)と大野への投球が反省点」。球数も多く、6回まで120球。開幕前にインフルエンザで5日間、ほとんど体を動かせなかった影響もあり、「最後の方がボールの押さえが効かなかった」と振り返った。

 それでも6回3失点で試合はつくった。2度、ピッチャー返しのライナーを好捕し、難しい打球を巧みにさばいて併殺を奪うなど、守備でも沸かせた。その粘りが打線にも伝わり、サヨナラ勝ちにつながった。梨田監督も「岸に負けがつかなかったことが大きい」という。今後も中6日で回るとすれば、KoBoパークでの登板は5月下旬までない。楽しみはとっておこう。【沢田啓太郎】