広島新井貴浩内野手(41)が、20年間のプロ野球生活に幕を下ろした。日本シリーズはソフトバンクに1勝4敗1分けで敗退し、新井の現役ラスト試合となった。最後となった打席は8回先頭の代打で遊ゴロだった。34年ぶりの日本一で、引退の花道を飾ることはできなかった。

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三振だけはするなよ。新井の打席を、そんな思いで見ていた。新井の出番はどこで来るのか。チャンスでの代打ならいいけれど。そう思って試合を見ていた。抑え込まれている流れを変えようということか8回の先頭で打席に入った。しかし結果は遊ゴロ。安打は出なかったが一塁まで一心不乱に走る姿を見ていた。

日本一で引退になれば最高だった。しかし、そんなにうまくはいかない。ソフトバンクは故障者が出ても、それを補って勝った。底力があった。勝つものがいれば、負けるものがいるのが勝負の世界。それでも引退が決まっているのに最高の舞台で戦力としてベンチに入っていたのは本当に幸せなことだと思う。

観客が少なかった広島市民球場時代、さらに阪神に移籍していたことを考えれば、この満員のマツダスタジアムで、日本シリーズで、選手としての最後を迎えられるとは新井本人も予想もしていなかったことではないだろうか。

25年ぶりに広島がリーグ優勝した一昨年。ボクも本当は日本シリーズが終わってから引退を表明するつもりだった。でも「ファンが最後の姿だと分かって黒田さんを見たいんじゃないですか」と言ってきたのは新井だった。そう思って、シリーズ前に引退を明かした。

長い時間を彼と過ごしてきたが本当にじっくり話すようになったのは03、04年ぐらいからだろうか。新井が主砲、ボクがエースと言われるようになったころだ。どうしたらチームを強くできるか。どうやったらカープが強くなるのか。そんなことを話しながら酒を飲んだものだ。

ともにFAでチームを離れたが広島に戻ってきた。復帰は同じ14年のオフ、15年のシーズンだった。彼が復帰を迷っているようなので「お前のプレースタイルはカープに絶対、合う。チームが声を掛けてくれてるんだったら戻るべきだ」と言った。

広島に戻ってきたこの4年間の新井は泥まみれになってがむしゃらにやっていた。40歳前、そして40歳を超えた体であれだけやったのはすごい。若い選手たちは、今は体も動くし、思うようにプレーもできるだろうし、その状態はまだよく分からないだろう。でも自分が40歳近くになったとき、新井のこの4年間の姿を思い出してほしい。

新井がいなかったらボクも復帰して活躍できなかっただろうし、リーグ3連覇もなかったと思う。だけど彼が広島に戻ってきたことの最大の意味は若手にあの姿を見せたことだと思う。今はお疲れさんという言葉しか浮かばない。(元広島投手・黒田博樹)