<阪神6-5ヤクルト>◇30日◇甲子園

 藤川のアナウンスに、場内がどよめいた。同点で迎えた9回表。セーブがつかない場面での登板だ。しかしこれは当然の一手。新井の劇弾へと続くシナリオの大事な1ページだった。「裏(の攻撃)やから。いつも通り。勝ってよかった」。4番ガイエルから始まるヤクルトにとっての好打順も関係なかった。14球投げたストレートで、150キロ台を計測しなかったのは、2球だけ。ガイエルは真ん中を見逃し三振。リグスのバットはフォークに空を切った。短くバットを握った宮本は投ゴロが精いっぱい。3人締めで今季初白星を挙げた。

 歴史的な開幕ダッシュを象徴するような試合だった。4月終了時で貯金「12」。76年の球団最多を1つ上回った。岡田監督もこれには興奮を抑えきれなかった。「おお、そうやな。(9回は)向こうも4番からで0点に抑えたからな。あの回で決めるつもりやった。みんなでつないだから、負けないと思った。何とかなると思った。みんな、調子がいいわけじゃない。カバーしあったから」。打線では今岡、フォードが打撃不振に苦しんだが、赤星や新井ら全員でカバーしている。

 投手もそうだ。この日投げた下柳、久保田は本調子ではなかった。それでも最後は守護神がきっちりと抑えて、相手に傾いた流れを止めた。指揮官はチーム一丸の姿勢を感じ、最後まで勝利を信じて疑わなかった。「サヨナラにつながったが…」。藤川はそう聞かれ、即答した。「関係ないよ。新井さんに聞いてください」。ヒーローは1人じゃない。この返答が猛虎の強さを物語っている。3、4月で1勝11セーブと快投を演じ続けた藤川もまたロケットスタートの立役者の1人だった。

 「明日も1試合あるから、終わりという気はしない」と岡田監督は言った。きょうから新たな月が始まるが、この勢いは止まりそうにない。【田口真一郎】