<ヤクルト2-7巨人>◇4日◇神宮

 巨人が緊急事態を乗り切った。ヤクルト8回戦の試合前、4番高橋由伸外野手(33)が腰痛のため出場選手登録を抹消。今季初先発の野間口貴彦投手(24)が5回7安打を浴びながらも2失点の力投で今季初勝利をマーク。2回2死一、三塁では自ら先制となる適時内野安打を放ち、その直後、亀井の三塁打では本塁への全力疾走もみせた。ヤクルトには神宮での開幕3連戦で3連敗。因縁の相手に連勝し借金も2まで減らした。3位広島にも0・5差。5日も勝って、今度こそ逆襲する。

 野間口の勢いが、悠々と好調ヤクルト打線の上をいった。「自分らしく、初回から腕を思い切り振っていきました。3、4回で降板しようと関係なく、全力で」。最速150キロの直球を外角低めに集めたかと思うと、川島慶、田中らうるさい右打者には内角スライダーを有効に使った。「インスラが、いいところに決まった。阿部さんのおかげです」。腕の振りが強いから、打者は一瞬体がのけぞる。ならではの芸当で、もぎ取った今季初勝利だった。

 腕を振る強さと変わらぬ、ハートの強さを兼ね備えていた。登板2日前。先発陣の練習に、野間口はいなかった。登板を隠すためのチーム戦略。「荷物を取りに来た」と夕方ジャイアンツ球場に現れ、キャッチボールをしてきびすを返した。中継ぎで連日肩をつくる中での初先発。あまりに酷な調整だったが「全く問題ありません」。自分なりに各打者の特徴を整理、敵だけを見つめこの日を待っていた。

 前回登板は4月26日阪神戦。2回無失点で先発キップをつかんだ。エース上原の後を受けたマウンド。だからこそ、力と心がこもっていた。「もし試合の流れを変えることができたら、(5回途中で降板した)上原さんに負けがつかなくて済む」。この一心で腕を振り、プロ入り後最速となる152キロをマークした。

 野間口にとって上原は恩人だ。3月のオープン戦。阪神戦と同じように上原が先発、野間口は後を継いだ。制球にこだわるあまり持ち味の勢いが消え8失点。失意の晩、食事に誘ってもらった。その時もらった言葉が忘れられない。

 上原

 お前の一番いい球は、外角低めの真っすぐやん。あんなうらやましいボールを持ってるんだから、生かすことを考えてな。努力は3カ月後に成果となって表れ、報われる。オレはそう信じてる。

 この日一番の球は「真っすぐ」と即答できた。背景には、上原の言葉を体現できたうれしさがあった。

 神宮球場は、野球をしていて初めて鳥肌が立つ経験をした舞台だった。

 昨年9月11日、抑えの上原が土砂降りの中で力投。中断後に連続三振で切り抜け、優勝をたぐり寄せるセーブを挙げた。ブルペンで見つめ野間口は思った。「上原さんに、どれだけ迷惑掛けてるんだ。自分が少しでも負担を減らしたい」と強く思った。勝利への執念を学んだ舞台で、上原だけでなく、高橋由も、二岡も、李もいない危機を救った価値は大きい。

 原監督も「最初から飛ばして、彼らしい投球をしてくれた」と賛辞を惜しまない。みんなが心配なく戻ってこられるように。野間口は、ちぎれるほどに腕を振る。【宮下敬至】