<楽天5-7ソフトバンク>◇5日◇Kスタ宮城

 ソフトバンクがようやく借金生活に別れを告げた。延長11回、大村直之外野手(32)の中前適時安打などで2点を勝ち越し、今季2度目の4連勝をマーク。4月20日以来となる勝率5割復帰を果たし、3位タイに浮上した。1点リードで迎えた9回、抑えのホールトンが制球を乱すと、王監督は無死一塁、カウント1-2の場面ながら投手交代。久米、小椋をつぎ込む執念の継投策で、この一戦にかける意気込みを示した。これで5月は4勝1敗。「5月反攻」が始まった。

 「鬼門」の2文字を打ち壊した。松中でも小久保でも川崎でもない。この日のヒーローは途中出場の大村だった。延長11回1死二塁。カウント1ストライクから144キロの直球を中前に打ち返し、決勝点をたたき出した。「たまには打たんとね」。右太もも裏痛で開幕を2軍で迎え、2日に登録されたばかり。まだスタメンに名を連ねていないが、プロ14年間で通算1669安打を記録するベテランは、その存在感を1本の安打で見せつけた。チームが仙台で喫していた2年越しの連敗を「4」で止めた。

 4月20日以来となる勝率5割復帰。「5時間か。どういう試合なんだろうな」。試合終了は午後11時13分。王監督にはそれ以上に長く感じた試合だっただろう。7回には濃霧で試合が21分中断し、終盤からは大粒の雨がグラウンドをぬらした。1点リードの9回。その雨が王監督の表情まで一変させた。抑えのホールトンが制球を乱した。

 半袖のアンダーシャツでマウンドに立つ新ストッパーを、大粒の雨が容赦なく襲った。先頭の鉄平を四球で歩かせると、続く嶋にもストライクが入らない。カウント1-1からの3球目。140キロの直球が内角に外れると、王監督は一塁側ベンチで杉本投手コーチを左手で押し出すようにマウンドへ送った。その直後、王監督はマウンド方向へバツ印を示すと、球審に投手交代を告げていた。

 4番手の久米が1死二塁から渡辺直に左前適時打を打たれ、同点とされた。2死後、久米が3番聖沢に四球を与えると、王監督はさらに小椋まで投入した。現時点で08年型「勝利の方程式」を担う3投手を、1イニングにつぎ込む異常事態。「四球とか失策とか思わぬ出塁が失点に絡む」と王監督は四球を嫌う。「現役のころは四球なんてつまんない、と思ってたけど、2000いくつか選んでるんだから、今思えば、チームの勝利には貢献したな」。868本塁打とともに不滅の日本記録ともいわれる2390四球を選んだ王監督だからこそ、その価値は十分に分かっていた。

 試合前練習中、王監督は三塁側ベンチに陣取る楽天野村監督を訪ねた。「強いねえ。うちなんか借金がずーっと続いているよ」。お互いに現状をぼやき合ったが、王監督にとってはこの借金返済が当面のテーマだった。執念の継投の背景はそこにもあった。「今年はこんなもの。最後まで粘り強く行くしかない。まあ、でも勝って良かった」。昨季は2勝8敗と大きく負け越した仙台で、今季2度目の4連勝を飾り、楽天と並び3位タイ。5月はこれで4勝1敗。ソフトバンクにとっての「黄金月間」は始まったばかりだ。【中村泰三】