<広島7-8日本ハム>◇17日◇広島

 胸を張っていい敗北だった。広島打線が日本ハム・ダルビッシュから序盤に3点を奪うなど、何度も大型右腕に冷や汗をかかせた。赤松が今季3本目の先頭打者アーチを放つなど3安打2打点で「ダル・キラー」ぶりを発揮。8回には4点を奪い、1点差まで追い詰めた。札幌に続くダルビッシュ撃破はならず、4連勝は逃したが、十分に明日への光を照らした。勢いのままに再出発すればいい。

 広島市民球場が持つ「魔力」だった。1度は死んだ試合とは思えない盛り上がり。押せ押せムードの中、嶋の飛球が高々と左翼に上がる。入れば逆転だ。一瞬、大歓声が上がり、そして観衆はかたずをのんだ。入るか、切れるか、取られるか…。しかし左翼工藤がフェンスにぶつかりながら好捕。球場を包む大きなため息が、カープの怒とうの反撃の終わりを告げた。

 球団関係者によると、ダルビッシュ効果で当日券が飛ぶように売れたという。平日では異例の約2万人観衆。だが、この夜の「主役」は決してカッコよくなかった。そうさせたのが赤松だった。初回から長身右腕に襲いかかった。

 「ウソだろ?」。打球の行方を見ていたマウンドのダルビッシュが両手を軽く広げた。その後ろを赤松が軽快に走り抜ける。初回の先頭。カウント0-1からやや内寄りに入った甘い直球をフルスイング。打球は左翼ポール際の中段まで到達した。5号の先制ソロは今季3本目の先頭打者アーチだった。

 「打った瞬間いったと思いました。初球の直球を見て、札幌ドームのときの球と違い、あまり良さそうに感じなかったので気持ちに余裕ができた。思い切りスイングして、いい結果が出たのでうれしいです」。

 前回4日の対戦でも決勝点は赤松のバットが生んだ。0-0の2回の2死二、三塁から左翼線に2点二塁打。これが決勝打になった。札幌ドームで抜群の勝率を誇る右腕に土をつける値千金の一撃だった。

 場所が広島に変わってもダルビッシュを苦しめた。赤松は2-3と逆転されて迎えた4回にも、今度は1死二塁からスライダーを左前に転がし、再び試合を振り出しに戻した。6回の第4打席でも左中間に痛烈な二塁打。今季、セ・リーグの打者でダルから3安打したのは赤松が1人目だ。

 背番号38はこう言って胸を張る。「思い切ってやっているから結果が出ているんです。実績は向こうが断然上。僕は挑戦者。相手が160キロを投げるクルーンでも、ダルビッシュでも全然怖いとは思わない。(向かっていって)死球を受けてもチームとしてはOKですからね」。この精神だ。赤松は誰に対しても決して名前負けしない。

 切り込み隊長の姿に勇気づけられた。熱い魂は打線全体に伝染した。圧巻は5点を追う8回だった。2死一、三塁から東出、アレックス、栗原が3連続適時打。一挙に1点差-。

 最後は嶋が惜しくも倒れたが、球界屈指のセットアッパー武田久に一歩もひるむことはなかった。栗原は「ああやって最後まで粘れた。明日につながる流れです」と強く言った。連勝は止まったが、カープの成長を印象づける大きな“敗戦”だった。【柏原誠】