<阪神5-3巨人>◇8日◇甲子園

 いま立っている境遇に感謝した。首位に立つチームの先発を任される。宿命のライバル巨人との初戦に指名される。岩田稔投手(24)は小走りでマウンドに上ると、毎回の投球前に帽子を取って、プレートにおじぎした。1球に気を込める。初回から速球で真っ向勝負。2死後、主砲小笠原と対決してもひるまない。2球目。144キロ内角球でバットをへし折った。力で一ゴロに封じ、最高のスタートを切ってみせた。

 岩田

 インコースは打者が嫌がるところに投げないと意味がない。そこに投げ込めて、良かった。僕の場合、スライダーが頭にある。自分なりにそれを生かすにはどうすればいいのか…。真っすぐをしっかり投げ込むことです。

 要所を締める。2、4回は得点圏に走者を置くが、併殺打に抑えた。6回1失点の好内容。打者に援護を受け、5月17日ヤクルト戦(甲子園)以来となる今季6勝目をマークした。苦しんだ1カ月半だった。投げても白星と無縁の日々を過ごす。勝つために必要なことは何か。岩田は自問自答し、1つの結論を出した。

 岩田

 元々、真っすぐで空振りを多く取るタイプじゃない。でも最近は『たまに』取ることもできなくなっていた。苦しくなって投げたスライダーを打たれる。やっぱり真っすぐです。

 6月26日。北京五輪代表候補として、都内でユニホームの採寸などに臨んだ。他球団の精鋭と顔を合わせる。日ごろから、投球スタイルを参考にしている投手もいた。意を決してソフトバンク杉内に声を掛けた。「真っすぐで空振りを取るにはどうすればいいですか?」。しばらく考え込んだサウスポーはつぶやいた。

 杉内

 ボールを前で離そうと意識しすぎないことは大事だよ。そうするとフォームもおかしくなる。

 威力のある速球を投げ込みたいあまり、リリースにこだわりすぎれば、投球フォームは崩れる。岩田は「自分を見失うな」というメッセージを感じ取った。

 速球は生命線だ。この日は4回、ラミレスから空振り三振を奪った。球威はよみがえっていた。矢野と初コンビを組んで、巨人戦に3戦3勝。今や『Gキラー』だ。

 岩田

 白星がついたことは僕にとって大きい。交流戦で全然勝てなくて迷惑をかけた。チームに貢献できるよう必死に頑張ります。

 試練を乗り越えた若きサウスポーが、歴史的な快進撃の輪に加わった。【酒井俊作】