ソフトバンク王貞治最高顧問(68)の厳格ともいえる礼儀正しさは、兄鉄城(てつじょう)さんの教えと無縁ではなかった。早実に入学した56年春、日大三高戦に4-0で完封勝利した。派手なガッツポーズに、鉄城さんは「相手の気持ちも考えろ」とたしなめたという。それ以来、どんなに劇的な場面でヒーローになっても、兄の言葉を忠実に守り感情を表に出すことを控えた。

 後に鉄城さんは「素直に喜び、悔しい時は耐えればいいのに、あれほどとは思わなかった。自然な生き方をさせてやれなかった」と後悔したが、王顧問は「兄は間違っていない。父親は中国人で日本に受け入れてもらって、商売をさせてもらった。いかなるときも周りへの感謝の気持ちが大切なことを教わった」。

 58年、早実3年の王顧問は当時の佐川スカウトの勧誘を受け、阪神入りに傾いていた。しかし兄のひと言がきっかけで巨人入りを決断。「実は両親からは、阪神入りを勧められていた。でも最後は兄貴に『お前はどうなんだ?』と聞かれた。もともと巨人ファンだったし、あこがれがあった」と振り返った。兄とのきずなが「世界の王」を支え続けた。【寺尾博和】

 [2008年12月21日10時4分

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