<中日2-5阪神>◇25日◇ナゴヤドーム

 中日井上一樹外野手(38)が25日、今季限りで現役引退することを表明した。7回に代打で登場し、2点タイムリーを放った井上は試合終了後に会見を行い、今季の打撃不振によって引退を決意したことを明かした。今後の進路は未定で、27日の本拠地・阪神戦ではセレモニーが行われる予定。ドラゴンズひと筋20年のベテランが山あり、谷ありの現役生活に幕を引く。

 グラウンドを去ることを決断した男のスイングに迷いはなかった。4点をリードされた7回2死一、二塁。代打で登場した。阪神先発能見に追い込まれたが、動じなかった。内角スライダーに鋭く反応すると、打球は痛烈に一塁線を破った。大歓声に包まれながら二塁へ走った。「これだけの低打率でも応援して、祝福してくれる。幸せ者だなと思った」。敗色濃厚のゲームを一気にヒートアップさせた。沸き返る右翼スタンド。やはり井上は最後まで「役者」だった。

 試合後、会見を開くと多くの報道陣を前に今季限りでの引退を表明した。

 「9月に入って悩みに悩んだ末に決めました。今季はヒットが出ず、ファンの声援が心にしみ始めた。涙腺がゆるむように感じた。そろそろ決意する時かなと思った」。

 プロ20年目の今季も昨年に続いて開幕2軍スタートだった。夏場になって1軍に上がっても安打が出ない日々が続き、9月11日ヤクルト戦、今季27打席目で初ヒットを放つと「たった1本のヒットですが、自分の中ではこれまでで最も重いヒットだった」と感極まって、試合中に涙を流した。それでもシーズン終盤で1割に満たない打率に責任を感じ、今月21日、東京遠征中に決断を下した。

 井上は89年のドラフト2位で鹿児島商から投手として入団した。04年に野手転向してから打撃センスとパワーが開花。星野監督の下で99年には主力として開幕21試合連続安打の球団記録をつくり、同年のリーグ優勝に貢献した。06年には選手会長も務めた。最も思い出に残るシーンを聞かれると「あのレフト線を抜けていったのは今でも鮮明に覚えている」と99年、神宮でのヤクルト戦で優勝を決定づけるタイムリーを放った場面をあげた。

 今後の進路は未定だが、球団側は功労者として27日阪神戦で引退セレモニーを予定している。「正直、他球団で頑張ってみようかなとも考えたが、この球団ひと筋できたのでここでやめるのがベストだと思った」。会見で涙はなかった。ドラゴンズひと筋20年間のまっすぐな道のりが、涙もろい男を晴れやかな笑顔にさせていた。【鈴木忠平】

 [2009年9月26日11時21分

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