ソフトバンク小久保裕紀内野手(38)が19日、ライバル球団の若手に異例の「弟子入り」だ。19日、故郷の和歌山で開かれたプロ野球現役選手によるシンポジウムに参加。高校球児を指導するイベント内で、小久保はオリックスで売り出し中のT-岡田(本名・岡田貴弘内野手=21)に本塁打に関して公開質問をぶつけた。通算384本塁打の男が17歳下、わずか7本塁打の若手に頭を下げ、4年契約の最終年にあたる来季へヒントを探った。一方で世界の王の金言を授けるなど情報交流を図った。

 球児の質問に実技指導で答えていた小久保が立場を一変させた。同じパネリストだったT-岡田に素朴な疑問をぶつけた。

 小久保

 今日は聞こうと思ってたんやけど、何であんなに逆方向に強い打球を打てるん?

 教えて。

 壇上でマイクを握りながら公開取材をかけた。小久保がプロ16年目、相手は4年目。実績では大きな差がある。あまりに珍しい光景で、21歳も申し訳なさそうに苦笑いで答えた。

 T-岡田

 打撃が変わったのは体幹を意識したからです。腹筋や股(こ)関節の動きです。すると、飛ばそうとせず、しっかりバットを振れば飛ぶようになりました。それとバットを体の一部と考え、体に巻き付けるようなスイングを、と。

 8月14日のスカイマーク。「なにわのゴジラ」の愛称を持つT-岡田(09年登録名は岡田)は、ジャマーノの地面スレスレのチェンジアップを逆方向の左中間最深部へたたき込んだ。「ごつい本塁打だったから」。同じスラッガーとして、このプロ初本塁打に度肝を抜かれた。探求心の強い小久保は脳にインプットし、この日を待っていたのだ。

 T-岡田から教わった「極意」に納得した。小久保はミートの瞬間までは腹筋、ミートしてからは背筋を使う。この方法でインパクトに力を集約する上で体幹の強さは不可欠。「軸になる部分は同じ。そこを鍛えるために僕もアリゾナに行くんだから」。来年1月から米アリゾナで行う自主トレでも大きなテーマだ。

 おかげで39歳の来季へ方向性を再認識できた。「オレは基本は引っ張りの打者。より引っ張りに磨きをかけようと思った」。逆方向に打つのか、引っ張るのか-の違いはあるが、互いにアーチで球界を盛り上げることに変わりはない。このやりとりの後、小久保も情報提供でお返しした。384発を放つ自分を支える、あの言葉だ。

 小久保

 僕は王さんにずっと言われてきた。長打が長所の人は練習のときは120%の力で打てと。でないと長く現役はできん。背骨がバリバリと鳴るまでバットを振る。今日よりも明日、明日よりも明後日、ボールを1センチでも遠くへ飛ばす努力をしろと、ね。

 胸に刻む「王の金言」を惜しげもなく授けた。オリックスには2年連続で負け越し。敵に塩を送るような発言にも思えるが、真意は異なる。「敵とは言え、岡田監督も期待し、メディアも注目している。オリックスを背負う長距離砲に育ってほしいね」。リーグ活性にはライバルの出現は歓迎だった。現役プロによるシンポジウム。目を輝かせていたのは高校生たちだけでなかった。

 [2009年12月20日12時0分

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