<横浜5-3中日>◇17日◇横浜

 今年も落合野球が動き出した。中日の3番森野将彦内野手(31)が初回1死一塁で異例の送りバントを決めた。リーグ屈指の強打者の犠打は昨季1度だけ使った「秘策」。年に1度あるかないかのプレーさえも、しっかり予行演習する緻密(ちみつ)さはオレ流野球の象徴だ。落合博満監督(56)はこの試合から、主力にフル出場を指令。最下位横浜に敗れたものの、V奪回への準備は着々と進む。

 えっ?

 だれもが首をかしげたくなるシーンは初回だった。1番荒木が左前打で出塁の後、2番セサルが遊飛で1死一塁。ここで3番森野はなんと初球から送りバントを試みた。ファウルになったが、相手先発清水直は面食らったのか、一塁へけん制球を送って様子を探った。それでも引き続き送りバント。2球目をきっちりと一塁前へ転がして走者を二塁へ進めた。

 本番を想定した攻撃なら、なぜ、2番セサルが送らないのか。疑問だらけの犠打の謎を森野が明かした。

 「僕はやっておかないとだめなんです。少し前に(首脳陣に)やらせてくださいって頼んでいました」。

 3番森野の送りバントは落合野球の「秘策」だ。昨季、森野が犠打を記録したのはわずかに1度。ただシーズンで何度も訪れる「あと1点」が欲しい場面では、クリーンアップの犠打も有効策の1つになる。対戦相手も想定しないだけに、チャンスを広げる可能性が広がる。今季も「秘策」があると落合監督に聞かされた森野が、予行演習を直訴したというのが真相だった。

 「練習でやるのと実戦ではまったく違う。1シーズンで1度だけかもしれないですが、僕がやる場面は必ず大事な場面。失敗はできない」。

 じつは昨年も3月21日ソフトバンクとのオープン戦(福岡ヤフードーム)で犠打の予行演出を行っていた。不動の3番が年1度のバントに備える。その姿勢は着実に1点を取る落合野球を象徴している。

 「前から本人がやりたいと言っていたんだ。(オープン戦中に)3回やりたいと言っている。あとは左投手か?」。

 意義ある犠打に笑顔だったのは辻総合コーチだ。12球団で最長となる8年連続Aクラスの常勝軍団。表向きはオープン戦最下位の横浜に敗れたが、その裏では着実に勝利の種をまいていた。【鈴木忠平】

 [2010年3月18日11時24分

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