<阪神6-5横浜>◇9日◇甲子園

 走りに走ったら、巨人の背中がまた近づいた。1点ビハインドの8回に大和内野手(22)と上本博紀内野手(24)の代走コンビが激走に次ぐ激走で同点&逆転ホームに駆け込んだ。最大5ゲーム差と離された巨人とは、5月7日以来の1・5ゲーム差と再接近。勢いに乗って、奪首まで猛ダッシュや!

 ダイヤモンドをひときわ小さな体が駆け回った。8回裏、ついに1点差を追いついてイケイケムードの中、173センチ、63キロの上本がベンチから飛び出した。広陵高の大先輩金本に代わり1塁ベースに立った。その4球目だ。「思い切ってスタートを切れました」。高速モーターのスイッチを入れると、初盗塁は成功!

 さらに大きなドラマが待っていた。捕手橋本の送球が上本の腹部を直撃しレフト方向に吹っ飛んだ。三塁コーチの山脇コーチの腕も、上本の足もフル回転。ノンストップでホームインした。真弓監督は両手をベンチのラバーにたたきつけて喜んだ。ハイタッチの列の最後では城島がヘルメットを両手でつかんで、手荒に脱がせて、かぶせて、脱がせて-。冷静な上本もさすがに照れ笑いだ。「1点差だったので、最後まで集中しようと思って、気を引き締めました」。プロ初盗塁に初得点が逆転決勝のホームイン。初のお立ち台まで一直線の夜だった。

 カクテル光線を浴びた数分後にはもう客観的に分析していた。「昨日ちょっと出たことで、冷静に思うようにプレーできました。もっと早くスタートを切れるように研究が必要だと思います」。野球センスは抜群だ。名門広陵高で4度の甲子園出場。早大でも1年から4年間全試合にフルイニング出場している。

 だがプロの世界は甘くなかった。チャンスすらつかめなかった1年目の昨季、2軍練習後の鳴尾浜球場には上本が外野フェンスで壁当てをする音が度々響いていた。「僕は運がよかっただけ。まだ何も足りないんです」と上だけを見ていた。オフには恩師である広陵高の中井哲之監督にぽつりともらした。「バッティングで勝てれば行けると思います」。普段は人のことを話さない上本が名指しでライバルに“指名”したのが、実はもう1人のヒーローの大和だった。

 この回、先頭ブラゼルが二塁打を放つと俊足大和に声がかかった。1死三塁となり、金本の一塁ゴロでスタートを切る。わずかにスタートが遅れたが「一塁手が外国人だったので、早く投げられないと思った。ベースの角が空いていたので、迷いはなかったです」。自信を持ったスライディングでブロックをかわし、同点のホームを陥れた。

 ひそかなライバル関係。張り合うように1軍を目指し、未来のレギュラーを争う上本と大和。2人の激走競演が逆転勝利を呼び、お立ち台に並んだのも何かの縁か。首位巨人に1・5ゲーム差に接近。大和は初々しく締めくくった。「明日勝って、3連勝して、いい流れで(巨人戦まで)いけるように頑張ります」。打つだけじゃない。足攻で勝利した猛虎が、一気に頂点まで駆け上がる。【鎌田真一郎】

 [2010年7月10日11時18分

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