<阪神1-3広島>◇14日◇甲子園

 自分の居場所まで、1歩1歩をかみしめた。神妙な表情で帽子を取る。マウンドに立ち、プレートに向けてお辞儀した。左肘手術から552日ぶり復帰戦。岩田稔投手(27)は元気に帰ってきた。

 「緊張はあった」。09年10月9日ヤクルト戦(神宮)以来のマウンド。初回1死二塁、3番広瀬への3球目、スライダーが真ん中に入り痛打…。左越え2ランで早くも先制を許した。

 ここから真骨頂を発揮だ。持ち味の揺れる直球でゴロを打たせ、低めに消えるスライダーで空振りを奪う。2回以降の3イニングは完全投球。7回5安打3失点で球数はわずか72球だ。無四球と安定し、最速146キロで6三振も奪った。

 昨年3月23日、左肘を手術した。その5カ月前、1度は悩んで手術回避。2月沖縄キャンプ中に「肘から血が出る感覚」に襲われた。「もう、するしかない」。手術を止める声もあったが、迷う時間はなかった。手術前日には大阪府内の実家を訪問。覚悟を決めた。

 手術から2週間は左手を上げたまま固定。1人で風呂にも入れない。2児の育児に奔走し、第3子を身ごもっていた美佳夫人にシャンプーを手伝ってもらう毎日。利き手ではない右手ではしを持ち、米粒をポロポロ落とした。「あの時期が一番辛かった」。オレ、何やってんやろ…。惨めになったこともある。

 「嫁さんの方が大変やのに迷惑かけてもうて…」。

 気を紛らわそうとテレビをつければ阪神戦。思わず目をそらすと、妻がさりげなくリモコンを取る。「おもしろくないね」。チャンネルをパ・リーグ戦やお笑い番組に替える。優しい気遣いが胸に染みた。「ホンマ頑張らなアカン」。昨年12月30日、第3子の次女は無事誕生。子供3人の写真を携帯でチェックし、今パワーに変えている。

 2月には元阪神の辻本賢人投手(22)がメッツとマイナー契約することが判明。すぐさま電話し「自分も頑張らな」と気合を入れ直した。この日は1年半ぶりと思えない快投。だが、もちろん満足はしていない。

 岩田

 あまり(復帰戦とは)思っていなかった。目の前の試合に勝つことだけを考えていた。結果、負けてしまって悔しい。連勝を止めて申し訳ない。

 真っ赤な顔で自分を責めた。手術明けだからといって甘やかされる気はない。次回は21日巨人戦(甲子園)に先発予定。初黒星の苦みは、伝統の一戦でスパイスに変える。【佐井陽介】