<阪神3-2巨人>◇19日◇甲子園
新井が決めた!
良太が決めた!
伝統の阪神-巨人戦。今季初対決で新しいヒーローが誕生した。同点の延長10回、兄の新井貴浩内野手(34)が内野安打でつないだ2死満塁で、新井良太内野手(27)が、巨人の守護神・山口から右前にサヨナラ打を放った。試合時間は3時間半を経過し、凡打すれば引き分けという場面。4番の兄がつなぎ、中日から移籍した途中出場の弟が、大仕事をやってのけた。
新井良に笑顔を作る余裕はない。歯を食いしばり、両手を突き上げる。兄が、金本が、球児が…。仲間が作った輪の中心でもみくちゃにされても両手は突き上げたまま。「興奮してて、正直あまり覚えていない」。シャツが出ていても関係ない。格好良かった。
新井良
2アウト満塁で来るんじゃないかと、準備だけはしていた。兄は敬遠されると思っていた。無心で積極的に行こう、と。
7回に代走登場し、9回は先頭で見逃し三振。挽回のチャンスが最高の形で訪れた。2-2の10回裏。2死一、二塁から4番新井貴が遊撃内野安打でつなぐ。兄からバトン、熱い思いを託された。
新井貴
まさか、ああいう状況で良太に回るなんて思わない。塁上から絶対打てよ!
と思っていました。
マウンド上は巨人山口。1ボール1ストライクからの3球目。内角直球を押し返し、右前にライナーだ。阪神移籍後の初安打は自身初のサヨナラ安打。「何て答えて良いのか…。『よう打った』と声かけましたけど。金本さんも僕が打った時はこんな感じだったのかな…」。兄も困惑!?
させる劇的な1打だった。
「皆さん、本当によく僕に絡んでくれて、すごく感謝しています」。阪神1年目の新井良は早くも「いじられ役」を確立し、驚くほどチームになじんだ。いつも笑顔がトレードマーク。ただ、それが新井良のすべてではない。
新井良
打てなかったらメッチャ落ち込む。でも周りには見せないようにしている。雰囲気が悪くなるから。勝てばやっぱりうれしいし、1人になってから落ち込むようにね。どん底まで気持ちが落ちたことなんて、何回でもある。中日時代、1軍昇格して3日で落とされた時なんかは…。
そんな時、大事にしている宝物を手に取る。3枚の便箋だ。中日2年目を終えた07年オフ、当時の仁村薫トレーニングコーチ(現楽天2軍監督)が退団。達筆でぎっしり3枚書かれた手紙を渡された。そのリーダーシップを貫いてくれ-。胸が熱くなった。「すごく厳しい人だった。衝突したこともあったのに…。今でもたまに読み返す時がある」。がむしゃらに練習した日々。あのころの気持ちを忘れないために。
積極的に外野練習も受ける。誰に指示を受けたわけでもない。「少しでも幅を広げたい」。必死なのだ。開幕兄弟1軍で騒がれた。兄とはよく食事に行くほど仲が良い。ただ、「新井の弟」で終わるつもりはない。
鳴りやまない良太コールの中、初めて聖地・甲子園のお立ち台に上った。
新井良
あの~、あの~…、今日だけで終わらないように頑張ります。
虎の新井良太。初々しく、それでいて力強い決意表明だった。【佐井陽介】