<ヤクルト1-0中日>◇20日◇神宮

 大黒柱が帰ってきた!

 右肘手術の影響で出遅れていた中日吉見一起投手(26)が7回6安打無失点。圧巻の投球を披露した。チームは9回、ヤクルトにサヨナラ負けを喫して09年5月16日以来となる借金3。泥沼を抜け出せないでいるが、背番号19の復活がチーム浮上の力になる。さあ、ここから逆襲するしかない。

 三塁側ベンチの右隅にいた吉見は、立ち尽くすしかなかった。0-0の9回裏、無死一、二塁。3番手河原が代打三輪のバントを三塁へ送球。だが、まさかの事態が起こった。カバーに入った遊撃荒木のグラブも届かず、ボールは無人の三塁ベース上を越えて三塁側ファウルゾーンへ。二塁走者が悠々と生還。まさにぼうぜんとサヨナラのシーンを見つめるしかなかった。

 昨季、2勝8敗と分が悪い“鬼門”で2日連続の負けゲーム。それもダメージが残る自滅によるサヨナラ負け。真っ先にベンチから出てきた吉見は、まるで敗戦投手のように、うつむいたままだった。

 吉見

 最低限の仕事はできたと思います。こういう状況なんで責任感を持って投げようと思っていました。やっぱり出遅れたという気持ちが強かったので…。

 白星がつかなくても復活マウンドは圧巻の内容だった。序盤から変化球を低めに集める丁寧な投球で7イニングで奪った三振は7つ。ヤクルト打線に的を絞らせなかった。昨オフの2度にわたる手術を乗り越えて帰ってきた。悔しさともどかしさを1軍のマウンドでようやく晴らした。

 06年以来の2軍キャンプを過ごしたが、決して無駄にはしなかった。自ら走り込みを増やして4キロの減量に成功。練習が終わると宿舎から数十キロ離れた温泉施設に出向き体のケアを施した。自宅でも家族の協力を得て食事を見直し、野菜を多く摂るように心掛けた。

 家族だけではない。励みになったのは先輩の存在だった。3月15日。ウエスタン・リーグで実戦復帰を果たした際に神戸第2球場でトヨタ自動車時代の先輩・オリックス金子千に再会した。金子千はキャンプで遊離軟骨が発覚し、右肘を手術。1年前に開幕戦のマウンドにいた2人は同じ立場にいた。それでも「焦るなよって言われました」。我慢を重ねてリハビリをする先輩の姿に刺激された。

 チームはまだ8試合とは言え、最下位から抜け出せないどん底状態に陥っている。ただ、大黒柱が好投したことで今後は計算しながら先発ローテを組むことも可能だ。

 落合監督

 吉見が投げられればそれでいいんだ。あんだけ放ってくれたんだから。明日、明後日見て何ともなければ大丈夫だ。そのうち落ち着くよ。

 まだ始まったばかり。昨季の王者が慌てることはない。いくらでも取り返す-。逆襲への態勢は整いつつある。【桝井聡】