<日本ハム9-6西武>◇30日◇札幌ドーム

 日本ハムが西武を相手に5点差をひっくり返す逆転勝利で、96年以来15年ぶりのセ・パ12球団10勝一番乗りを果たした。5回に稲葉篤紀外野手(38)の今季1号3ランで追いつくと、6回には大野奨太捕手(24)が勝ち越しの1号ソロ。中田翔内野手(22)もプロ入り2本目の三塁打など、2安打1打点と流れに乗った。4月は首位で終了。今日1日は、ルーキー斎藤が自身とチームの3連勝を懸けて西武戦(札幌ドーム)のマウンドに上がる。

 失策も、暴投も、“お見合い”も…。序盤に犯した拙いプレーはすべて、逆転フィナーレへの序章だった。梨田監督が「勝ったことはいいけど…。自分の計算では負けているゲーム」とオカンムリだった一戦。だが、ゴールデンウイークに野球観戦を選んだファンは、正解だ。5点を追いかける5回が、ドラマの始まりだった。

 2点を返し、さらに1死一、三塁で今季まだ本塁打のない稲葉。「自粛」されている稲葉ジャンプはなくても、スタンドの思いはバットに届いた。勝利投手の権利目前の西武平野から、右翼席へ同点3ラン。自然と右拳を突き上げていた。「(ガッツポーズは)出てしまった。うれしかったですね。球場の雰囲気というか、ボルテージも上がっていた」。道内で流れるビールのCMでは「オトナ」についてシックに語るベテランも、このときばかりは体からにじみ出る喜びを抑えきれなかった。

 そのCMで共演し「初のCM出演とは思えない。落ち着いているし、ビールの飲み方がうまい」と関係者から絶賛された男も、打線の流れに乗って喝采を浴びた。弱冠22歳で、なぜか、もうビールが似合う中田だ。稲葉の劇弾に「はたから見ていて興奮した」と奮起。5回に天井直撃の大ファウルを放って破格のパワーを見せつけると、7回2死二塁の場面では外角直球を逆らわずに右中間へ飛ばし、適時三塁打でダメ押し点を生んだ。「いい感じで集中できました」。少しスリムになった巨体を揺らした激走は、試合を決定づける一打になった。

 初めて1軍で迎えた4月22日の誕生日翌日には、大阪桐蔭時代の同僚と食事をして英気を養った。練習ではノーステップ打法を試すなど、試行錯誤は続けてはいるが「素直にバットが出てくれました。完璧ではないけど、バットを出す感覚は戻りつつあります」と復調をアピールした。

 4月を首位で終え、15年ぶり12球団10勝一番乗り。この日の客席には東日本大震災で被害に遭い、札幌市内に避難している被災者の姿もあった。試合前、稲葉は約束した。「我々は最後まであきらめず、一生懸命プレーします」。序盤の劣勢をはね返しての逆転勝利には勇気が詰まっていた。【本間翼】