<横浜1-1阪神>◇21日◇横浜

 負けんかったけど…。球児のほとばしる無言ゲキも届かなかった。9回を3奪三振で締めた阪神藤川球児投手(31)が10回表、ベンチ横で異例のキャッチボール。今季初の2イニング登板も辞さない構えを見せ、打線の勝ち越しを願った。だが、スミ1のまま最下位横浜に延長11回痛恨ドロー。勝率5割復帰も逃した。火の玉ストッパーの心意気、次こそ生かさなアカン!

 グラブを抱えた藤川が、さっそうとベンチを飛び出した。同点で突入した延長10回の攻撃も2死ランナーなし。打席には浅井が立っていた。その状況で守護神が小宮山を相手に、内野フェンス沿いでキャッチボールを始めた。浮き上がるような直球、時折交える大きなカーブ。指先の感触を確かめるように、ボールを交換した。すでに9回に登板して3者三振で仕留めて、通常ならば仕事を終えている。それなのに、まるで味方が勝ち越せば、延長10回もマウンドに仁王立ちする-。そんな気迫を周囲に漂わせる異例の行動だった。

 藤川は帰りの通路で、笑みを浮かべて口にした。

 藤川

 (2イニング目突入は)ない、ない。(首脳陣と)話はしていない。肩が張ったから、キャッチボールをしただけ。

 今季はまだ1度もイニングまたぎを経験していない。秋口の勝負どころでフル回転させるために、チーム方針として封印されている。ただこの日の絶対守護神の行動は、シーズンの修羅場がいよいよ近づいてきたことを予感させるものだ。

 デーゲームで首位ヤクルト勝利の報を受けて臨んだ一戦。勝利が必要だった。しかし打線が横浜三浦の前に1点を先制した初回以降に沈黙。終盤は両軍ともに継投策でのしのぎ合い。藤川が見せた異例のデモンストレーションは勝利への執念を、チームに波及させる作用もあったはずだ。だが4番新井、5番ブラゼルが合計8打数無安打で、最後まで1点が遠かった。

 真弓監督

 もちろん勝ちたいんだけど。しかしよく守った。何度もホームにいかれるかなと思ったやつをね。1点だからな。点をとりたかった。4、5番のところで返してほしかった。

 指揮官も執念を見せた。前日20日にわずか1アウトで降板させた小林宏の登板を封印。7回途中から渡辺、榎田、藤川、福原、小嶋と5人の無失点リレーで、延長11回引き分けとした。

 首位ヤクルトとの差は5・5ゲームと半歩開いた。藤川は、帰りの通路で調子を問われて「まあまあ」と笑みを浮かべた。横浜との2試合はともに1回完全。しかも打者6人から5三振を奪う圧巻の投球。それでもまだ底を感じさせない守護神の存在が、修羅場に向かう猛虎の最大のストロングポイントになる。【益田一弘】