<巨人9-3広島>◇9月30日◇東京ドーム

 「4番阿部」で奇跡を起こす?

 2-2で迎えた8回、無死一、二塁から阿部慎之助捕手(32)が、右中間に勝ち越しの2点適時打を放った。9月23日の阪神戦から4番に座って7試合目。その間、4勝2敗1分けと好調なチームを引っ張っている。4番に泣かされ続けてきた今年の原巨人だが、阿部が4番に座り、ようやく打線に落ち着きが出てきた。原監督は残り試合とクライマックスシリーズ(CS)でも、4番は阿部でいく方針。「下克上」は阿部のバットにかかっている。

 これぞ「4番」の仕事だった。2-2の8回無死一、二塁。打席に向かう前、阿部は原監督から耳打ちされた。「ここは任せた」。何としても1点が欲しい状況だけに「4番だけどバントもあるのかな」と犠打も頭に入れていた。だが、指揮官のひと言で「楽になりました」と迷いが消えた。広島岸本の高め直球を振り抜いた打球は一直線で右中間へ。2者の生還を見届けると、阿部は二塁ベース上で両手をパチンとたたいた。

 4番を固定できないことが、今季の巨人のアキレスけんとなっていた。ラミレスが不振で、首位打者長野も4番では実力を発揮できなかった。そんな中、阿部は違った。「意気に感じて、やらせてもらっています」。9月23日に4番に座ってから3割3分3厘。もちろん打てない時もある。「打つとチームに勢いがつくし、僕が打てないと負けてるなと思うこともある」と感じつつ、「毎日は打てない」。重圧にも力まず冷静さを保ち、自分を見失わない。「たくさんギャラもらっているんで頑張らないといけないかなと思います」とちゃめっ気たっぷりに笑える強さもある。

 どっしり構える4番の姿は、仲間も勇気づけた。阿部の一打から代打矢野の満塁弾を含む打者一巡の猛攻で1イニング7得点、7者連続得点と今季初ずくめ。進塁打に決勝打、仲間にも火を付ける-。そんな阿部に、原監督も「送りバントの選択肢はなかったですね。彼が4番に入って同じような場面が数度あったのですが、すべて打たせています。そういう位置付けで戦ってほしいですね」と絶大な信頼を寄せた。報道陣に「クライマックスシリーズも4番は阿部だ!

 って書いときます」と言われると、「好きにしなさい」とまんざらでもなさそうに答え、周囲を爆笑させた。

 首位ヤクルトと2位中日が敗れ、上位陣との差を1ゲーム縮めた。残り15試合。阿部は「全部勝つつもりで頑張ります」とお立ち台を締めると、隣の矢野の手をさりげなく取って、掲げた。頼れる男が、巨人の中心にいる。【浜本卓也】