<巨人7-2中日>◇14日◇東京ドーム

 敗戦の悲壮感などみじんもなかった。試合後、落合監督は笑みをたたえていた。「投げられるんだから見たいじゃない。これだけ投げられたら十分。投げられるようになっただけで十分だ」。Vの可能性があった一戦で先発マウンドに送ったのは、プロ初登板の新人大野雄大投手(23)。左肩痛で6月末に実戦復帰したドラフト1位左腕に、サプライズの舞台を用意した。

 大野は2回までに6失点。だが、落合監督は動かなかった。「2回で代えたって何も残らない」。大野は結局、4回9安打7失点でプロ初黒星。それでも収穫だった。今月4日から始まった勝負の13連戦。ソトの離脱で先発は5人しかいなかった。敗戦覚悟の試合をつくることで乗り切るしかなかった。

 同時に正捕手・谷繁を休ませた。浅尾、岩瀬のリリーフ陣も休養させた。勝てば最高、負けても想定内。“捨てゲーム”をつくることで過酷な連戦を8勝2敗1分けで来ている。落合監督とともに今季限りで退団する森ヘッドコーチは「オレたちが来年も、再来年も(中日で)やるなら別だけど、オレたちの最後の仕事は、ドラフト1位の投手をマウンドに上げてやることだろう」と納得したように言った。

 初登板で胴上げ試合の勝ち投手という壮大な夢は打ち砕かれたが、チームにショックはほとんどない。「甘い世界じゃない。でも得るものはあっただろう。まあ、よそ(他球団)では(この状況での先発起用は)ないだろうなあ」。落合監督は笑った。神宮ではヤクルトが敗れ、ついにマジック1。今日15日は左腕チェン、谷繁が満を持して登場するはずだ。ゴール前で深呼吸した落合竜が、いよいよフィニッシュの瞬間を迎える。【鈴木忠平】