生え抜きスターよ、出てこい!!

 阪神藤川球児投手(31)が22日、西宮市内の虎風荘で新人や寮生ら約30選手に「一流への道」をレクチャーした。球団側の思惑と藤川の熱意が合致し、現役選手では異例の特別講義を実現。約1時間、2軍での下積みに耐えた自身の体験談を交えて、プロで生き抜くための心構えを説いた。藤川が特に願うのは「生え抜き選手の台頭」。球児の歩んだ道が若虎への模範になる。

 昼下がりの鳴尾浜で若手選手が心を奮い立たせた。虎風荘のミーティングルーム。ホワイトボードの備わった一室で熱弁を振るったのは守護神の藤川だった。「2軍の環境に慣れたらあかん!

 トップレベルを目指して頑張れ!」。ルーキーの伊藤隼はペンを走らせてメモを取る。秋山や中谷も納得顔だ。「目標を持てと言われるけど、現実的な目標と理想の目標の2通りを持ってやれ!」。若手の成長を願うからこそ、熱いメッセージを発した。

 2軍中心の若手相手とはいえ、同じ現役選手が大勢集まる前でレクチャーするのは異例だ。高野球団本部長は「本人が去年、話をしたいということだった。若い選手たち、特に生え抜きの選手に阪神でこれだけやったことを伝えたいということ。ありがたい」と説明した。近年は若手が伸び悩む事情を抱える。藤川の若手への思いを球団が知り、開催を打診。両者で話し合って実現にこぎつけた。

 98年ドラフト1位で高卒入団した藤川は03年オフにはトレード要員に挙がっていた。プロ7年目の05年にセットアッパーとしてブレークするまで、何度も1、2軍を往復。いまや球界を代表するリリーフエースに成長したが、虎への恩義は消えない。沖縄自主トレ中の16日には「生え抜きとして、ずっとチームにいる。阪神タイガースにお世話になった感情がそうやりたい(助言したい)と思わせてくれている」と話した。だからこそ、年明け早々、鳴尾浜を訪れた際もロッカーの汚れに苦言を呈した。

 この日は講義後、わずかに「何もないですよ。帰ります」と話し、施設を後にした。話すべきことは後輩にすべて言った-。背中がそう語っていた。思いは確実に若手に伝わっていた。

 07年大学・社会人ドラフト1巡目の白仁田もその1人だ。この日は対象者ではなかったが志願して耳を傾けた。「自分が忘れかけていたことを思い出させてくれた。『自分を持つこと、プライド』ですね」。球児の体験談は4年目の昨季、ようやく1軍デビューを果たした苦労人の心に深く刻まれた。生え抜きスターの出現はチームの総合力アップに直結する。投手キャプテンがフォア・ザ・チームを体現した。【酒井俊作】