<ヤクルト2-4巨人>◇23日◇神宮

 原巨人が5度目の挑戦で、ついにマジック30を点灯させた。2点を追う4回、高橋由と古城の適時打で追いつき、さらに2四球で勝ち越しと、決勝打のない攻撃。投げては緊急登板の小野が3回で退き、4回から継投でしのいだ。1点にこだわり、全員でカバーするのが12年度版・原野球。今季らしいゲーム運びで節目の勝利を逆転で飾った。

 マジック点灯は、一大イベントである。感想を求める報道陣に対し、原辰徳監督(54)は「まだ4-3でしょ?」と冷静だった。ヤクルトを下したその時、まだ倉敷の阪神-中日戦は8回表。人さし指を口に当て「その件は、ノーコメントでお願いします」と、おじぎしてクラブハウスへ消えた。数分後に訪れる点灯の瞬間まで歓喜する姿は封印した。それでも、いたずらっぽい表情に待ち焦がれた思いが、にじみ出た。

 前回4月の神宮3連戦は0勝3敗。単独最下位で、マジックなど、夢のまた夢だった。開幕2連敗で始まり、4月は2度の5連敗も喫した。長距離砲を並べ、大量得点を狙う従来の攻撃から、1点を奪う戦いへ。反攻のためには、戦い方の変換が必要だった。手応えを得たのはジャイアンツ球場での非公開練習だったと、原監督は振り返る。

 原監督

 今年もスタートは「なり」の状態で戦って、思うような勝率をあげられなかった。そのためにどうすればいいか。そこから入って、あのとき室内で非公開という形で、かなりの練習をしたわけだよね。点を取れるのがいい打線なのよ。チーム打率、本塁打数、その数字だけが一概に表すわけではない。

 4月23日と5月15日だった。シーズン中では異例の非公開練習。多様なバントなど、細かな攻撃の確認をした。今夏、東海大甲府が作新学院戦で行った「走者三塁からのヒットエンドラン」も練習した。奇襲も準備し、ナインに1点への意識を高めさせた。原監督は「何でもできるメンバーが9人の中にポツポツと(名を)連ねているのが大きいね。基本は個人技だよ。しかし『困っているみたいだな』というとき『よし、チャンネルを変えよう』と変えられる打線にはなっている」と現状を評価する。

 1点への厳しさを追求する。8月3日のDeNA戦の1回無死一、二塁。カウント2ボール1ストライクで重盗のサインを出した。二塁走者の長野は、スタートに失敗し三塁憤死。試合後の原監督は「あそこでダブルスチールというサインを出した、私が悪いとしておきましょう。ちょっと情けない話ですけど」と言った。奇襲には失敗は付きもの。盗塁そのものの失敗はやむを得ない。ただ、奇襲に戸惑った選手と、準備させていなかったコーチに対して、同監督は苦言を呈した格好だ。

 この日の4回、打者一巡5安打2押し出し四球の逆転劇は、まさに1点への意識が凝縮した結果。誰が主役でもない。ベンチ全員でともしたマジックだ。【金子航】