<コナミ日本シリーズ2012:巨人1-0日本ハム>◇第2戦◇28日◇東京ドーム

 緊迫の東京ドームが笑いに包まれた。巨人阿部慎之助捕手(33)がマウンドに駆け寄り右手を広げた。「バカッ、お前!」。駄々っ子を黙らせるように、沢村拓一投手(24)の頭を、いきなりひっぱたいた。

 沢村は立ち上がりに2つの死球を与えるなど余裕がなかった。1回2死一、二塁で打席には稲葉。1球目をファウルした後だった。遊撃坂本が二塁に入った。一瞬の間があり沢村はプレート板を外した。ふに落ちない様子でロージンバッグを手にした。セカンドへけん制球のサインを見落としていた。公開パンチは目を覚まさせる荒療治。沢村は「あってはならないです」と猛省し、阿部は「やるべき事をやってなかった。1点を争う試合なんだから」と振り返った。

 集中すると周囲が見えなくなる沢村を、どう制御するか。シーズン中から悩みの種だった。「声を掛けてもなかなか…」と、三塁を守る村田に相談した。

 阿部

 力むと構えたところにこなくって。カウントをつくれないんだ。

 村田

 独りじゃないって分かってほしいですね。動揺も顔に出さないように。

 阿部

 言って分からないなら、どうしたらいいかなぁ。

 たたいて分からせたのは阿部なりに考えた愛情表現だった。沢村を「あれだけのボールを投げる投手、いないよ。武田勝を見習ってほしい。考えれば、いくらでもやりようがある。求められているものは大きいんだ」とみている。2回以降は落ち着き、8回まで無失点の快投。愛のムチが効いた。【宮下敬至】

 ◆ポカリといえば

 92年7月5日の巨人戦で、野村監督(ヤクルト)が荒井の頭をたたいたのが有名。4-4の同点で迎えた9回裏、1死満塁で野村監督は代打荒井をコール。荒井がサインに迷ってもたつくと、野村監督はタイムを要求し、ファウルグラウンドで荒井の頭をポカリ。結局、荒井は三邪飛に倒れ、ヤクルトは延長で敗れた。