<ソフトバンク6-1楽天>◇5日◇ヤフオクドーム

 あの左腕が帰ってきた。しかも、完全救援だ。楽天長谷部康平投手(28)が2回に2番手で登板。4イニングを無安打無四球、5奪三振。12人で片付けた。1軍マウンドは11年10月9日のロッテ戦(Kスタ宮城)以来。チームは敗れたが、長谷部にとっては十分に価値のある52球だった。

 軸足に体重を乗せ、踏み込み、ひねり、腕を振る。本来の長谷部が帰ってきた。先発則本の不調で、いきなり出番はやってきた。140キロを超える直球と、ブレーキの利いたチェンジアップとスライダー。堂々たる投げっぷりで、1人の走者も許さなかった。

 635日ぶりの1軍マウンド。長いリハビリを乗り越えて、やっと、たどり着いた。「緊張しました。抑えられたのは良かったけど、球はバラバラ。チェンジアップが低めに決まったのが良かったです」とホッとした様子で話した。

 左膝の手術を受けたのは昨年5月7日。自身の軟骨を移植する手術だった。長谷部は「軟骨を、横から取って、下に入れる感じです」と軽い口調で説明するが、簡単な手術ではなかった。患部に体重をかけられず、3カ月は歩行も禁止。単身千葉の病院でのリハビリだった。夕方、病院近くの公園のベンチで1人、少年たちのサッカーを眺める日々。少年たちのような自在な動きを取り戻すべく「膝以外を鍛えよう」と誓い、単調なリハビリとトレーニングに没頭した。

 8月に仙台に戻り、歩行解禁。だが「歩き方を忘れてました」。左右の足がリズムよく順番に前に出ない。歩行練習から取り組み、キャッチボールまでに、また3カ月かかった。今春2月、キャンプの終盤、ついにブルペン入り。その頃には、肉体に変化があった。「長年、左膝をかばっていて、グチャグチャだった体が、フラットになった感覚。変なクセがなくなった。やっとスムーズに腕が振れるようになった」と話す。新人の08年に左半月板を手術して以来の違和感が、消えたと言う。手術前は135キロがやっとだった直球が、147キロまで回復した。

 星野監督は「良かった。次から長谷部を使うよ」と先発転向をほのめかした。長谷部は「次も投げるところで頑張るだけ」。今のベストを尽くすと話す。プロ6年目。新たなスタートラインに立った。【金子航】