<ヤクルト8-3広島>◇13日◇神宮

 ヤクルト小川泰弘投手(23)は“マウンドに上がるまで”を大事にして、リーグ最速の10勝に到達した。球宴前に勝ち星を2ケタに乗せ「予想はしてなかったです。でも一喜一憂せず、シーズンが終わって笑えるようにしたい」と涼しい顔で言った。同じ大卒1年目の02年に12勝を挙げた石川は「僕はがむしゃらに投げてただけ。ライアンはまわりが見えて、しっかり準備もしている。そこが違う」と言う。

 小川の登板までに潜入した。登板4日前。休養日が明けると、200メートル×12~14本。翌日は100メートル×20本を全力で走り、体幹を鍛える。「基本はメニューを変えない」。暑い夏場を乗りきるスタミナをつける。

 登板2日前。ブルペンに入る。江花ブルペン捕手が感心したのは取り組む姿勢だ。「一般的にはカーブを5球続けるとか球種を確認して、終わりの方で試合想定の調整をする投手が多い。小川はキャッチボールで肩をつくって、すぐ実戦モードに入る。同じアウトローでも『次は(打席の)ラインでお願いします』と、こだわりがある。1球甘く入ったら、次のボールの集中力がすごい。同じ投げミスだけは絶対しない。少なくても、僕が受けた中では見たことがない」。

 登板前日。就寝前にイメージトレーニングをする。「9連続で三振を取るぐらいの気分で。三振を取るイメージができていれば、低めにいくと思うので」。

 登板日。野外球場の試合前は、空と旗に目をやる。「状況、天候を見るのは大事なこと。大胆にも慎重にもなれる。捕手任せではいけないので」。

 投球前の準備に工夫があり、余念がない。この日は1、2回に4安打を集中され「少し体が一塁側に倒れる傾向にあった。左の壁をつくって、打者に打ちにくいフォームを意識して」立ち直った。本番を常に意識した準備に裏付けされた修正能力が、リーグ最速2ケタ勝利を支えた。【柴田猛夫】

 ▼小川がセ・リーグ10勝一番乗り。球宴前の前半戦で2ケタ勝利を記録した新人は、7月4日に10勝目を挙げ前半戦に12勝の99年上原(巨人)以来、14年ぶり。セ・リーグ9人目で、ヤクルトでは国鉄時代の59年北川(10勝)に次いで2人目だ。新人のセ・リーグ10勝一番乗りは61年権藤(中日)95年山内(広島)99年上原に次いで4人目となり、ヤクルトの新人では初の快挙。過去3人のうち権藤は35勝、上原は20勝で最多勝を獲得したが、小川はどうか。ちなみに、パ・リーグで新人の10勝一番乗りは99年松坂(西武)まで6人いる。