大不振に陥っている巨人阿部慎之助捕手(34)が「日本のキャプテン」からのメッセージで元気が戻った。仙台に向かう新幹線の車中だった。缶コーヒーを片手に日刊スポーツを手に取った。1ページずつ紙面をめくっていくと、今季限りで現役を引退した元ヤクルト宮本慎也氏の「シリーズ観戦記」に目が留まった。

 スランプに苦しむ阿部を、映画「男はつらいよ」に置き換え「キャプテンはつらいよ」と表現。04年アテネ五輪、08年北京五輪で日本代表のキャプテンとしてチームをまとめた先輩から見た自身の現状が端的に記されていた。阿部らしくないプレー、グラウンド上での顔つきと姿。「とにかく元気を出せ」との強いメッセージだった。ただ、同時にキャプテンが故に、不調の中で闘志や元気を表に出すことの難しさにも理解を示す内容だった。

 チーム内で同じ立場を経験してきた先輩の一言一句を熟読した。「宮本さんが言うとおり。自分に余裕がなかった。宮本さんに『ありがとう』と言いたい」と、心に染みた。だから、すぐに実践した。この日は、シートノックで誰よりも声を張り上げた。チーム内でも「やっと、慎之助らしくなってきた」と、周囲も感じ取れるほどだった。

 日本シリーズに入ってからの5試合で、たったの1安打。打率は1割にも満たない。そんな状況下でも、無敗を誇る楽天田中を打ち砕かなければ次はない。「3球目までに勝負するぐらいのつもりでいく。チャンスがあるとすれば外角のシュート。それを投手の足もとに打ち返せるかどうか」と、冷静に分析しつつも「1-0で、なんとか黒星をつけたいね。じゃないと、もうないんだからさ」と、豪快に笑い飛ばした。

 宮本氏の観戦記の文末は「キャプテンを任せられた男の意地を見せてもらいたい。阿部ならできるはずです」と、結んでいた。熱いメッセージはしっかり受け止めた。先輩への感謝の気持ちは今日Kスタ宮城で見せる。【為田聡史】

 ◆1日付の日刊スポーツに掲載された宮本慎也氏シリーズ観戦記要旨

 第5戦を観戦した宮本氏は、シリーズを通じて元気のない阿部に対し「今シリーズを巨人側から見たら『キャプテンはつらいよ』という題名で、主役は阿部になるでしょう。いつもの覇気がない。9回1死三塁、表情は青ざめていました」などと評した。自らもヤクルトや日本代表で主将を務めた経験から「状態が悪い時のキャプテンはつらい。元気を出すのが、恥ずかしくなる。『打てないくせに、よく元気でいられるな』と周囲に思われるのが、たまりません。怒らなければいけない時も、気が引けてしまう。私はそんな時こそ、下を向いてプレーしないよう意識しました。『誰でも打てない時はある。普段からきちんとプレーしているんだから、元気を出すのが恥ずかしくても闘志を表に出さないといけない』と自分に言い聞かせて」と、チームリーダーとしての姿勢を説いた。最後は「キャプテンを任された男の意地を見せてもらいたい。阿部ならできるはずです」と、激励の言葉で締めくくっていた。