巨人原辰徳監督(55)が、ペナントレースでも日本シリーズ第7戦を意識して戦う方針を持っていることが20日、明らかになった。昨年3勝3敗の第7戦に敗れ日本一を逃した反省から、大一番で実力を出し切れるチーム作りの必要性を痛感。144試合の長丁場となる公式戦の中に、短期決戦のような大胆な選手起用、戦術を用いる試合をつくっていく。開幕戦はちょうど1週間後の28日に迫る。長いペナントに一発勝負のスパイスをまぶして、日本一を奪回する。

 日本一を取り戻す長旅が始まる。神宮室内での練習を終えた原監督は、残り3試合のオープン戦について「仕上げ、じゃない。開幕に『関して』のベストオーダーを組む」と言った。「関して」を強調するのは訳がある。半年以上も先、秋の大一番を見据えて今シーズンを戦う腹案がある。「勝負の世界に生きる人間は、毒を食らっても肥やしにしなくては」が持論。痛恨の1敗を無駄にする気など、ない。

 原監督

 シーズンの144試合は長い。ときに「今日は、日本シリーズのつもりで戦う」と決めて、選手に伝える。ベンチも短期決戦用の用兵、戦術を入れる。

 昨年の楽天との日本シリーズ。先に王手をかけられた第6戦は、ヤンキースに移籍した田中が先発だった。原監督は打線を解体して、眼力で独創的なスタメンを組んだ。マー君を攻略し、13年シーズンで唯一の黒星を付けた。しかし雌雄を決する第7戦で完敗した。「短期決戦の難しさを痛感した。イーグルスは、良さを95%以上、出し切った。わが軍は、50%しか出せなかった」と分析し、シーズン中の短期決戦采配という大胆な思考にたどり着いた。

 構想を具体化するプランも、すでに描いてある。「選手をある程度つぎ込める6連戦の6つ目。まず、そこからいって。次は相手のエースが出てくる試合で実践する。結果が出る人、出ない人を、1年かけて見ていきたい」と明かした。

 レギュラーシーズンは、火曜日から日曜日までの6連戦を基本とする。「月曜日は休み」の日程を利用すれば、負荷を高めたピンポイントの用兵も可能となる。ローテーションを一時的に崩し、先発を小刻みにつなぐ。マシソン-山口-西村の最強中継ぎユニット「スコット鉄太朗」を、早い回から突っ込む。決戦に向け「鬼の継投」を予行演習する。エースを一丸で崩す試合も設定する。阪神能見、広島前田らに対し、右、左打者の並びはもちろん、年に1度あるかないかの勝負手を積極的に打ち、1点をもぎ取りにいく。

 キャンプで臨時コーチを務めた松井秀喜氏が、金言を残した。「ある試合の前、バーニー・ウィリアムスが『今日は大事な試合だ』と言った。なぜ、と聞いたら『いつもヤンキースはワールドシリーズ第7戦のつもりで戦うんだ』と言った」。原監督の方法論は、世界を勝ち抜く普遍の方法論にも通じている。【宮下敬至】

 ◆13年の日本シリーズ巨人対楽天6、7戦

 田中を崩さなくては敗退する巨人は、打線を根本から組み直した。前日練習から原監督が個々の打撃を吟味。3番に高橋由を据え、不振のロペス、出場機会のなかったボウカーを並べた。2番松本、9番には寺内と、シーズン中にはないスタメンで臨んだ。ロペスが本塁打、高橋由が適時打とズバリ的中し、第7戦に持ち込んだ。逆王手された楽天は美馬-則本-田中の無失点リレーで日本一達成。星野監督は「日本一は奇跡かも知れんが、短期決戦の戦い方ができた。いいピッチャーをつぎ込んで、勝てた」と振り返っている。<原監督の勝負手>

 ◆中0日

 08年8月24日広島戦で、前日に中継ぎ登板していた東野を中0日で先発起用。プロ初完投勝利を挙げ、チームは32年ぶりの12連勝。

 ◆海を越えた緊急招集

 09年3月20日、WBC第2次ラウンド1、2位決定戦で村田が右足を負傷。代表候補だった栗原を、日本から緊急招集することを即決。決勝の韓国戦でスタメン起用した。

 ◆偽装スクイズ

 09年10月31日の日本シリーズ第1戦。7回表、無死一、三塁で木村拓がスクイズバントを空振りも、三塁走者の谷はスタートを切らなかった。日本ハムバッテリーが混乱しているスキを突いて、一塁走者の阿部が二塁を陥れた。好機拡大で得点し、初戦を制して日本一へ。

 ◆初球重盗

 11年6月6日ソフトバンク戦、投手森福。同点の9回1死一、二塁で長野、坂本のコンビが初球に重盗成功。村田の決勝犠飛で勝ち首位に。あまりの鮮やかさに森福はショックを受け、ベンチで涙。