<巨人12-3阪神>◇30日◇東京ドーム

 広島からFA移籍した巨人大竹寛投手(30)が、チーム史上3人目の移籍後初登板で初勝利を挙げた。阪神西岡が救急搬送され、球場全体が騒然。少しの動揺があっても不思議ではなかったが、気持ちを保ち、6回2/3を2失点(自責1)に抑えた。強気に攻める場面と丁寧にコーナーを突くスタイルを混在。“大胆さと繊細さの間”に、勝利の女神が舞い降りた。

 救急搬送される西岡の無事を祈りながら、大竹は自分を保った。2回2死一、二塁、右翼線に飛球を打ち上げ、西岡が負傷。三塁ベースに到達した大竹は心配そうに見つめ、ベンチに戻った。「どういう状況でも自分のプレーをすることを考えた」。多少の胸騒ぎもあっただろう。それでも、25分間の中断中、ベンチ裏でストレッチなどで体を温め、試合に入った。

 騒然とする中でも、肝が据わった投球を見せた。4点を先制した直後の3回、上位から始まる大事な場面だったが、きっちりと無失点に抑えた。FA移籍後初登板で、舞台は伝統の一戦。予期せぬアクシデントも起きたが、大竹はたくましく、マウンドを守った。「程よい緊張感があったが、それを力に変えられたし、しっかり集中できた」と胸を張った。

 ホームベースを完全に支配した。シュートは右打者の内角をえぐって、左打者の外角へはストライクとボールを絶妙に出し入れ。スライダーは右打者の外角低め、左打者の内角低めに沈めた。20個のアウトのうち、12個が内野ゴロ。恋愛小説「冷静と情熱のあいだ」はミリオンセラーで有名だが、大竹が見せた“大胆と繊細の間”は、白星を積み上げるすべだった。

 あの日もそうだ。19日に行われた燦燦(さんさん)会。内海に促され、財界人を前にモノマネを披露した。アニメ「サザエさん」のマスオさんの声で「まいったな~」とひと声。会場を爆笑に包んだ。終了後、決行した理由を聞かれ「あの場(壇上)に行って何もしなかったら、自分が行った意味がないじゃないですか!

 やるしかないんです」。場の空気を読む繊細さと実行する大胆さを示した。

 マウンドでは6回2/3を2失点に抑え、打席では3安打2打点。巨人の投手では94年の桑田以来の猛打賞だった。原監督は「非常に緊張した中で、自分の力を出してくれた」と認めた。疲労感は違うかと問われ、大竹は言った。「気にしないし、関係ないです。次に向けて、調整するだけ」。頼りになる男が、チームに加わった。【久保賢吾】

 ▼FAで広島から移籍の大竹が巨人初登板を白星で飾った。FAで巨人へ移籍した投手は10人目だが、巨人初登板で白星は00年4月4日工藤、12年4月1日杉内に次いで3人目だ。打っては自身初の3安打。投手の猛打賞は10年5月15日涌井(西武)以来で、巨人では94年4月13日桑田が横浜戦で3安打して以来、20年ぶり。いきなりシーズン初登板の試合で猛打賞は両リーグを通じて94年桑田以来の快挙となった。00年工藤は12勝、12年杉内も12勝してチームの優勝に貢献したが、大竹は何勝できるか。