<巨人12-3阪神>◇30日◇東京ドーム

 ショッキングな敗戦の中で、別格の存在感を示した男がいた。緊急三塁を務めた阪神新井貴浩内野手(37)だ。6点差とされた直後の7回、巨人大竹のスライダーをとらえた。ゆったりと左足を上げ、力みのないスイングから放たれた打球はバックスクリーン左まで飛んだ。圧倒的な今季1号だった。

 「これまでやってきたことができたかな。待っていない球にも反応できていた。よかったと思うよ」

 3度の打席、ストライクはすべてフルスイングできた。新打法の威力をいきなり証明してみせた。

 ベンチで迎えた16年目のシーズン。開幕2戦目まではバットを振る機会はなかった。だが3戦目、西岡と福留が激突し、両者とも球場を後にするという衝撃のアクシデントに見舞われた。4回に先発榎田の代打で三ゴロに倒れた。ベンチに戻ると「三塁」を命じられた。今成が右翼にまわる緊急シフトだった。

 「緊張したよ。何年ぶり?

 オープン戦も守っていなかったからね…」

 12年7月以来、1年9カ月ぶりとなる“ぶっつけサード”をこなしながらのアーチだった。黒田ヘッドコーチは明日からの中日戦でも緊急シフトを敷く可能性を「選択肢の1つ」とした。緊急事態の阪神で、にわかに新井の周囲があわただしくなった。

 オープン戦で3割を超える数字を残しながら、新外国人ゴメスを4番に据えるチーム事情で控えにまわった。複雑な思いを抱えながらも声を出してチームを盛り上げた。

 「腹の中にはいろいろなものがあるよ。でも、いつどこでも(試合に)いけるように準備しないと。野球はチームスポーツだから。お天道様は見ているから」

 人事を尽くし、天命を待っていた男の一撃。確かに敵地で王者巨人の力をまざまざと見せつけられた開幕カード。西岡の離脱は必至で、福留も出場できるかどうかは不透明な状況だ。だが前を向く要素はある。そう、猛虎には新井がいる。【鈴木忠平】