<日本ハム2-5西武>◇11日◇札幌ドーム

 西武岸孝之投手(29)がエースへの階段を上った。日本ハム相手に9回3安打2失点と好投し、今季3戦目の先発登板にして待望の初勝利をもぎ取った。直球主体にカーブを織り交ぜ、緩急で相手打線を手玉に取った。自身としては昨年8月11日のオリックス戦以来となる完投勝利。堂々たる投球で今季チームの「完投第1号」になった。

 しなやかだった。力強かった。岸が気持ちよさそうに腕を振った。迷い無く「行きます」と9回のマウンドを志願した。先頭の日本ハム中田への初球は、外角高め141キロ直球でファウルを打たせてストライク先行。チェンジアップとカーブでカウント1-2と追い込むと、ゆったりとしたフォームからカーブを投げ込み見逃し三振に沈めた。

 相手主砲を沈黙させ、完投を確信した。「序盤を乗り切ったのが大きかった。今日は直球が良かったので。(炭谷)ギンがうまくリードしてくれた」と、ポーカーフェースを貫いたままマウンドを守り切った。最後は佐藤賢を投ゴロに打ち取ってナインをハイタッチで迎え入れると、ようやく表情が緩んだ。

 開幕戦を含め2戦2敗にとどまっていた男がつかんだ今季1勝。開幕前、2年連続の大役に指名されるも「僕のことをエースと呼ばないで下さい」と背を向けた。だが、周囲が許すはずがない。昨オフに3年総額12億円の大型契約を結び、球団からも“エース”としての役割を託された。もともと東北生まれで気の優しい性格だけに目立つことを好まない。だからこそ、じっくりと自分の中だけで考えた。

 岸

 ライオンズには感謝しかない。恩返ししたいという気持ちはある。でも、何をしたら恩返しと言えるんでしょうね。

 開幕から2つ続けて黒星を喫し、その答えが少しずつ見えてきた。試合後、エースとは?

 との問いに迷わずに即答した。「勝てる投手だと思います」。選手としてもエースとしても、最大の目標は1つしかない。伊原監督は「うちのオープニング投手ですから。岸で勝たないとチームの浮上は見えてこない。ナイスピッチングですよ」とたたえた。勝利が恩返しになり、エースになるための糧だと岸は分かっている。【為田聡史】