<ソフトバンク3-2楽天>◇4日◇ヤフオクドーム

 FA戦士が窮地に陥ったチームを救ってみせた。ソフトバンクが楽天戦の9回、鶴岡慎也捕手(33)の右越え二塁打で今季4度目のサヨナラ勝ち。鶴岡は3回に右太ももを痛めた細川に代わって途中からの出場。今季、日本ハムからFA移籍加入しながら苦しんだ男が、本拠地で初めて輝いた。3連勝で、試合のなかったオリックスに1差と迫った。今日勝って、オリックスが敗れると5月16日以来の首位となる。

 勝利を呼び込む鶴岡の打球が、右翼手の頭上を越えていった。同点の9回1死一、二塁だった。前の打者本多は敬遠されていた。

 鶴岡

 代打かなと思ったが監督からベンチで『お前いくぞ』と言ってくれたので落ち着いていけた。併殺だけは(避けたい)と思い右飛を狙った。いいところに飛んでくれた。

 試合前まで今季楽天福山に1打数1安打。打率2割2分4厘でこの日を迎えた鶴岡に、秋山監督は託した。理由は「初めて立つ打者よりいいんじゃないかと。よく打った」。指揮官の勝負手にバットで応えてみせた。

 移籍後初のサヨナラ打。お立ち台も初めて。ヒーローに呼ばれる前にベンチを飛び出してしまうほどうれしかった。昨年は2割9分5厘。打てる捕手として、日本ハムからFA加入も打撃不振でベンチを温めてばかり。6月まで1割台に落ち込んでいた。捕手として肝心の守備面にも暗い影は及んでいた。「摂津の投げたい球の3割くらいしかまだ理解できていない」と話すほど、慣れない投手陣をうまくリードできず配球も責められた。中田の“専属捕手”も外され、正捕手の座を細川から奪えていなかったが、その細川がこの日負傷交代。突然巡ってきたチャンスで、存在感を示してみせた。

 単身で福岡に来た。交流戦後の休日、久しぶりに札幌の自宅へ帰り家族と会った。1月に生まれた第3子となる長女の成長ぶりに、福岡で苦闘した半年の期間の長さを感じた。「やっぱりこの時期の札幌は最高ですね」。青く澄み切った空を見てリフレッシュし再び福岡へ戻った。長く苦悩した時間とも、サヨナラだ。チームに今日5日の奪首チャンスももたらした。

 お立ち台では「移籍してまったく働いてなかったのでこれから働けるように頑張ります」とファンに覚えてもらえるように誓った。ナインに手荒い祝福を受けた背番号8。やっと、会心の笑みを浮かべていた。【石橋隆雄】