巨人長野久義外野手(29)が19日、来シーズンの開幕戦出場に照準を合わせた。今月上旬に、都内の病院で右膝半月板の修復手術と右肘のクリーニング手術を受け、この日退院。既に来季に向け、リハビリを開始している。日刊スポーツの取材に応じ、人生初の手術、入院生活を自らの言葉で語りながら、開幕戦出場に強い意欲を示した。

 松葉づえも、ギプスもなかった。午後2時過ぎ、口元にマスク、ジャージー姿の長野が、さっそうと現れた。病院関係者に深々と頭を下げ、復活への第1歩を力強く右足で踏み出した。「ご心配をおかけしましたが、大丈夫です。リハビリも始めていますし、開幕に間に合わせるつもりでいます。1日でも早く、元気な姿を見せられるように頑張ります」。それまでの沈黙を破って、開幕戦出場への強い意思を込めた。

 周囲が心配するのも、当然だった。あの長野が、人生初の手術、約2週間の入院生活。巨人で最も頑健な男らしく、シーズンを戦い抜いた代償だった。痛み止めの注射、治療を重ね、満身創痍(そうい)の中でプレーを続けた。体の2カ所にメスを入れた事実は重く、シーズンの出遅れを心配する声も、耳に届いている。右肘、右膝と計3時間に及んだ手術。復帰へは簡単な道のりではないだろうが、開幕戦を強く意識した。

 有言実行だった。過去にも、苦難を超人的に乗り越えた長野らしく、翌日からリハビリを始めた。松葉づえを使ったのは数日で、この日も普通に階段を歩行。すでに自転車型のトレーニング器具をこぐなど、順調そのもの。驚異的な回復にも映るが、ニヤリと笑って「日ごろの行いがいいからですかね」と長野節で返した。

 重苦しさなど、一切なかった。手術の日は病院に球団のトレーナー陣が集結し、入院を公にすることはなくても、チームメートや友人などが病院を訪れた。退院だったこの日は、病院スタッフにお礼と報告を行うと、笑顔の輪が広がった。「不安も感じなかったですし、楽しく時間を過ごせた。みなさん温かくて、アットホームな感じでした」と振り返りながら「1つだけ、心配事があるんです。僕がいなくなって、看護師のみなさんが寂しがるんじゃないかなと…」と笑った。

 復活への充電期間ととらえ、第1段階を完了させた。「体をゆっくりと休められましたし、不安なく、プレーできる」と力を込めた。「野球選手にとって、いかに体が大事か。ケガをして、手術をして、強く思った。来年は1年間、フルに出られるように頑張りたいです」。笑顔の裏に込めた決意をグラウンドで体現する。【久保賢吾】

 ◆長野の故障

 負ければ首位陥落の8月21日ヤクルト戦(神宮)。同点の9回1死一、二塁で、中堅の長野が右中間深くの飛球に猛ダッシュ。体全体を伸ばしてグラブの先端でキャッチした際、右膝を痛めた。右翼の橋本は「抜けたと思った」と仰天。チームは延長11回で勝利した。「右ひざ関節挫傷」と診断されたが、リーグ優勝まで登録を外れずにプレー。グラウンド外では、ゆっくり歩く痛々しい姿が目立った。右肘の痛みは慢性的なもの。今回は遊離軟骨(通称ネズミ)の除去手術に踏み切った。<長野超人伝説>

 ◆怪力

 昨年のグアム自主トレ中、当時のWBC日本代表の山本浩二監督が長野の1・5キロのマスコットバットを持ち「こんな重いもん、振っているのか?」と驚嘆させた。

 ◆神が認めた打力

 昨年10月に死去した川上哲治氏から「今の巨人のバッターで一番いいのは長野だ。あの外角打ちの技術はすごい。あれだけ離れて立っているんだから」と最後に名指しで絶賛を受けた。

 ◆判断力

 昨年はシーズン3度のライトゴロを完成させた。昨年の楽天戦では誰もがアウトだと思った走塁で、忍者のように嶋のタッチをかいくぐって、ホームに生還した。

 ◆視力

 センターの守備中にファウルボールが記者席に飛び込み、記者が捕ったのを見ると「ナイスキャッチでしたね」と試合後に声をかけた。約150メートル先の、ささいな出来事も逃さなかった。