「優勝請負人」がソフトバンクに新黄金時代をもたらす-。工藤公康新監督(51)が就任1年目にかける思いを激白した。西武の黄金時代を知り、ダイエーで常勝チームの礎を築いた。プロ実働29年で培った工藤イズムで、至難の業とも言える日本一連覇に挑戦する。

 これほどの重圧を背負って、監督生活をスタートさせた指揮官はそういない。日本一連覇。新人監督ながら、偉業達成を期待されている。黄金時代の西武、常勝チームの基礎を作ったダイエー時代、そして巨人。現役時代には11度の日本一を経験した「優勝請負人」がどうアプローチしていくのか。

 工藤監督

 日本一連覇は意識しないとダメ。意識して、緊張感がある中で、試合を乗り越えるのか、乗り越えられないのか。どんどん選手には意識をしてほしいと思うし、マスコミにも連覇するんだという気持ちを伝えてほしい。

 異例のお願いだった。重圧から選手を守るタイプもいるが、工藤監督は逆だ。15年のシーズンは選手にとって、日本一連覇という目標と嫌でも向き合わなければならない。正面から向き合って、重圧をはねのけることを求めた。西武時代を振り返る。

 工藤監督

 優勝できないと考えたことはなかった。オールスターぐらいになってきたら、(他球団は)バテてきて、石毛さんの「そろそろ行くぞ」のひと言で、みんながガーッと行った。勝ち方を知っている。そういう選手の集まりといえばそうかもしれない。負けられない3連戦があれば、どんなに悪くても、勝ち越した。西武と対戦すれば、たたかれる状態だったので、相手はいつか落ちてしまう。そういうチームになれば、一番いいと思う。

 チーム内のライバルだった渡辺久信の投球フォームを、夜間の室内練習場でたった1人で何度も模倣した日々があった。自分で考え、試行錯誤する。向上心を持ち続けることが常に勝者であるために必要な要素だ。

 ダイエー時代には、Bクラスだったチームの体質を変えた。時には厳しい姿勢でチームメートにハッパをかけることもあった。それは工藤監督の中では「厳しさ」ではないという。

 工藤監督

 練習が厳しいのは、それに耐えないとケガをしてしまうから。長いシーズンで大事なのは、体力。体力がないほど、ケガをしやすくなる。ダイエー時代に言っていたのは「もっとトレーニングしなさい。キャンプが楽で仕方がないとなれば、ブルペンに入って技術を磨ける」。ケガをすれば、時間もかかる。自分の欠点になりやすくなる。チーム全体にマイナスになる。厳しいのではなく、アスリートとして、やるのが普通。厳しいことを言っているとは思わない。みんなだって、長く現役を続けたいと思っている。

 日本一のチームをいかにまとめていくのか。監督1年目だが、横一線でフラットに選手を見る考えはない。新加入の松坂に対しても、先発枠を無条件に空けることはない。

 工藤監督

 チームには先発でやってきた選手がいる。先発でいえば、大輔がその中の1人という考えはしたいが、確定ではない。

 ベテランの松中には、こんな言葉を用意した。

 工藤監督

 レギュラーは自分で勝ち取らないといけない。どんどんチャレンジしてほしい。レギュラーは与えられるものではなく、自分で奪うものと思っている。あきらめないでやってほしい。

 これは松中だけに向けられた言葉ではない。選手層の厚いチームで、チャンスをうかがっている選手へのメッセージでもある。レギュラーも控え選手も高いモチベーションをもたせ、高いレベルで戦力を維持することを目指す。西武流だけでなく、ダイエー流だけでもない。プロで培った工藤イズムで、新黄金時代の土台を築いていく。【田口真一郎】

 ▼新人監督のリーグ優勝は、2リーグ分立後14人(1リーグ時代3人)。最近では、日本ハム栗山英樹監督が就任1年目の12年にパ・リーグを制している。日本一に限ると過去8人で、最近では08年西武の渡辺久信監督。前年に日本一となった監督の後任に就任したのは過去1人で、55年中日の野口明監督。54年日本一の天知俊一監督の後を次いだが、2位に終わった。工藤監督が新監督としてチームを2年連続日本一に導くことができれば、プロ野球史上初となる。