ゴジラの大きな背中を愛情いっぱいに押し出した。DeNA中畑清監督(61)が5日、巨人、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜氏(40)を宜野湾キャンプに迎え入れた。中畑監督の情熱あふれる要請に松井氏が応える形で今回の視察が実現した。DeNAの選手たちは、ワールドシリーズMVP、そして国民栄誉賞も受けた同氏のオーラに大きな刺激を受けていた。同時に松井氏にとっても、巨人以外のキャンプ訪問は初めてとあり、貴重な経験となった。

 時計の針が、ちょうど真上を指して重なろうとしていた。中畑監督が、白いワゴン車から降りる松井氏を抱き寄せて出迎えた。「みなさんに一応言っておくけど俺が先輩、大先輩だからね」。はち切れんばかりの笑顔で抱擁し、一斉にフラッシュを浴びた。

 松井氏はDeNAの青いジャンパーでグラウンドに現れた。日本球界では巨人一筋。他球団の着衣に身を通したことはない。他球団のキャンプ視察も初めて。引退後は表面的に活発な活動をしていない松井氏にとって、新しい1歩だった。

 実は、中畑監督が来訪を要請した理由はそこにあった。「俺は引退してから、まず最初にやったのは12球団のキャンプ巡りだった。ジャイアンツだけじゃなくて球界全体に恩返しをしなければいけないと思った。今日があいつにとっての第1歩だ」。巨人の枠におさまることなく、球界全体を見渡し、支える存在になってほしい。だからこそ巨人以外のグラウンドに立たせたかった。決して話題作りではなかった。

 松井氏の胸にも、思いは届いていたようだ。強風が吹き付ける中、最後の居残り特打までグラウンドに立ち続けた。練習後の取材では「何回もお断りさせていただいたんですが『頼むよ』の一点張り。最後には『恩返ししろ!』と。そんなに世話になっていないんだけどね」と笑いつつも「真っ白な気持ちで来ました。非常に新鮮でしたね」と充実感を示した。

 国民栄誉賞を受けた偉大すぎる後輩。なかなか助言もしにくいところだが、同じ巨人長嶋茂雄終身名誉監督を師と仰ぐ者として中畑監督に遠慮はない。訪問実現だけで満足せず明日7日の練習ではランチタイムにフリー打撃を計画している。松井氏は「1回振ったら体を痛めてDL(故障者リスト)に入っちゃう」と断るつもりだが、同監督は「(実現に)120%の自信がある。最終的には絶対に打たせる。俺は諦めないからね」と豪快に宣言した。

 中畑監督の明るいキャラと、強引な?

 交渉術で松井氏の心も動いているのかもしれない。今後は他球団のキャンプにも足を運ぶことがあるのかと問われると、松井氏は「中畑さん以上にしつこく誘われたら行きます」と笑顔で答えた。今後、ゴジラが日米球界を縦横無尽に歩き回るようになったら、それは中畑監督の大きな功績かもしれない。【為田聡史】

 ◆松井氏の引退後の活動

 12年12月の引退会見後もニューヨークに自宅を構える。13年5月、長嶋氏と国民栄誉賞を受賞。14年2~3月に古巣の巨人とヤンキースで臨時コーチを務めた。講演、引退試合、チャリティー等で公の場に現れるが、日本で定期的なテレビ解説などは行っていない。