異色左腕が男泣き-。ソフトバンクの新入団選手5人の発表が10日、福岡ヤフードームで行われ、苦労人のドラフト5位の嘉弥真新也投手(22=JX-ENEOS)が入団発表では異例のうれし涙を流した。高校卒業後、不動産業と野球の両立からやっとつかんだ夢に感極まった。誓いも新たに、中継ぎエースの森福を目標に1年目からフル回転する。

 涙が止まらない。夢にまで見た晴れの門出。嘉弥真の胸に、募る思いが一気に込み上げてきた。即戦力として期待される左腕は、質問に声をつまらせながら言葉を振り絞った。入団発表では異例の光景だった。

 「お世話になった人が多く、思い出したら泣いてしまいました。野球をあきらめかけていたので…」

 高校時代は無名の存在。「仕事をしながら野球ができる」と誘われたのが、那覇市内のビッグ開発ベースボールクラブ。極めて異例の両立だった。不動産業と野球。午前中は野球、午後は物件の掃除。先が見えない状況に「あと3年で野球人生を終えよう」と入社後すぐに区切りを決めた。

 だが、このチームでサイドスローに転向すると思わぬ急成長を遂げた。初めは遊びのつもりで投げていたが、はまった。入社から2年9カ月後の10年3月に名門JX-ENEOSから誘われた。あくまで契約社員としての雇用。「3年で結果が出なかったら、野球を辞めて石垣島に帰って就職する」。そう心に決め、大好きな沖縄を離れ上京した。地元に比べ物価の高い東京での生活は苦しかった。両親が資金を援助してくれることもあった。

 今年夏の大会で好投し、スカウト陣から注目された。ドラフトで指名された時はただ驚くばかりだった。両親も見守る新入団会見ではこれまでの道のりが走馬灯のようによみがえり、男泣きした。契約金3000万円や年俸1000万円は「親にあげたい」という。

 目標は中継ぎエースの森福だ。「日本シリーズを見て勉強になった。自分も制球と変化球を磨いて、森福さんのように活躍したい」出身地の沖縄・石垣市白保轟地区は日本最古とされる2万年前の人骨が発見され脚光を浴びた場所。次に泣く時は1軍のマウンドで勝利に貢献した時。初心を忘れずに嘉弥真は故郷と同じように脚光を浴びてみせる。【菊川光一】

 ◆嘉弥真新也(かやま・しんや)1989年(平1)11月23日、沖縄県石垣市生まれ。野球は白保轟小4年で始める。八重山農林卒業後、ビッグ開発ベースボールクラブに進む。10年の都市対抗沖縄県1次予選の敗者復活代表決定戦で、名門沖縄電力戦の勝利に貢献。JX-ENEOS大久保監督の目にとまり移籍につながる。直球は最速142キロ。カーブ、チェンジアップ、シュート、スライダー、縦のスライダーと豊富な球種を操り急成長。172センチ、65キロ、左投げ左打ち。家族は両親と姉、弟。