球界の名手がプライドを取り戻す。中日荒木雅博内野手(33)が9日、名古屋市内の球団事務所で契約更改交渉に臨み、2500万増の2億円でサイン。来季は5年契約(年俸変動制)の3年目となる。二塁から遊撃にコンバートされた今季は20失策と守備でミスを連発。持ち味を発揮できなかったが、来季は「遊撃でゴールデングラブ賞」を目標の1つに挙げた。

 喜びの笑顔でもなければ、怒り心頭の表情でもない。会見場に現れた荒木は複雑な表情を浮かべた。現時点で和田に次いで野手ではチーム2番目となる2億円の提示。納得できなかったのは交渉の内容ではない。

 「キリの良いところまで上げてもらいました。優勝はしましたけど、前半は全然ダメ。成績は良くないけど、上げてもらったかなという感じ。1年間、逃げ道をつくってきたのかなと分析している」。

 今季は3月のオープン戦で左脚を痛めて出遅れた。それでも、すぐに戦列に復帰して136試合に出場。打率2割9分4厘と成績を残した。だが、納得いかないのは『逃げ道をつくった』と表現した守備だった。本格的に二塁から遊撃にコンバートされた今季、20失策を記録。6年連続でゴールデングラブ(GG)賞の男が、新境地のショートでは屈辱にまみれ、GG賞を広島梵に譲った。

 「落ち込むこともあったし、夜寝られないこともあった。オレのせいじゃないよってね。でも『セカンドだったら』というのはもうやめた。それが成長を止めている」。

 もちろんGG賞の奪還が1つの目標だ。そのためにも開幕までの過ごし方を工夫する。春季キャンプでは従来通りアクセルを踏み込み、オープン戦ではその「幅」を調整する。開幕までベタ踏みで突っ走り、左脚を痛めた今季の反省を生かす。

 「どうしても(シーズンの)初めでつまずいてしまう傾向がある。やり過ぎてケガしましたというのは無責任。考えてやっていく。右も左も分からなかった今年とは違う。今年はマイナスからのスタートだったけど、来年はゼロからのスタート」。

 くしくもこの日、阪神鳥谷が契約更改して2億6000万円でサインした。花形のショートでは鳥谷のほかにも、巨人坂本ら20代の内野手が球界の主役になりつつある。「幸いにも衰えたという気持ちはないし、すぐに衰えるだろうという気持ちもない」。34歳となる来季、背番号2のプライドを取り戻す戦いが始まる。【桝井聡】