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勝敗を分けた延長戦

日本一王手から2戦27イニングの死闘

2010年日本シリーズ第6戦 15回裏、日付が変わろうとする時間でベンチの金泰均(キム・テギュン)=(手前)も大あくび
2010年日本シリーズ第6戦 15回裏、日付が変わろうとする時間でベンチの金泰均(キム・テギュン)=(手前)も大あくび

 ロッテが球史に残る延長戦を繰り広げたのは、2010年(平22)の日本シリーズだろう。中日との熱戦は7試合中、3度も延長戦に突入した。中でも、ロッテが3勝2敗と王手をかけてナゴヤドームに乗り込んだ第6戦。そこからの2試合は文字通り死闘と呼べるものだった。

 1点を追う8回、4番サブローが中日浅尾から同点適時打を放ち、延長戦に持ち込んだ試合。あと1点が奪えないまま午後11時45分、延長15回、西岡が三振に倒れ、その日のロッテの日本一は消えた。電光掲示板には終電の時間が映し出されていた。試合終了を待たずに帰る客がゾロゾロ出た。どんどん客席がまばらになっていく、異様な雰囲気だった。

 延長10回には、この年のパ最多安打の西岡に、延長11回には、この日2本の適時打を放っていたサブローに送りバントを命じた。しかし、ともに失敗して併殺に倒れた。両チームともにチャンスを生かせない展開。試合時間は過去最長の5時間43分。イニングも初めて15回まで達し、試合終了の時間はこれまでのシリーズの試合で、最も遅い午後11時54分。計44人の選手が出場した。午前0時をまわって会見の場に現れた西村監督も疲労困憊(こんぱい)。「(試合時間は)何時間?」と逆質問したほどだった。

極限状態のナインに微笑んだ勝利の女神

2010年日本シリーズ第7回戦 日本一を決めマウンド付近で喜ぶロッテナイン
2010年日本シリーズ第7回戦 日本一を決めマウンド付近で喜ぶロッテナイン

 短期決戦の激闘はナインの体に負担をかけていた。このシリーズは第4戦も延長戦。ルーキーだった清田は、体の変調を感じていた。「シリーズは独特な雰囲気があって、知らないうちに疲れがたまっていました。朝、起きると両足がパンパンでしたね」。歯を食いしばり続けた結果、左下の奥歯も欠けていた。

 シリーズの延長戦というのは、それほど精力を使い果たす舞台だった。延長15回引き分けとなって迎えた第7戦も、総力戦の様相になった。先制したのはロッテだったが、逆転され、3回には4点差をつけられる展開。そこから今江、里崎、金泰均の適時打などで逆転したものの、9回には守護神小林宏がつかまり同点。勝利の女神が何を考えているのか、だれにも分からなかった。

 この2試合、マスクをかぶり続けた里崎が、オカルトめいたことを口にしている。「ドームの天井あたりに、勝ち運のようなものが見えたんです。それが、あっちに行ったり、こっちに来たりしていた。ほんと不思議なんです。つかもうとすると逃げるし」。虚空をふらふらしていた運気は、延長12回、岡田の右越え適時三塁打で、ロッテにやってきた。

 極限状態での戦いだったからこそ、里崎にもよく分からないものが見えたのだろう。「なんか知らないですけど、あの時は見えたんですよ」。いいかげんなことは言わない男だ。この2試合、27イニングが、比類ない死闘だったことの表れではないだろうか。【竹内智信】

適材適所の補強で例年にない厚い選手層

ブルペンで投球練習を行うFA加入の涌井秀章
ブルペンで投球練習を行うFA加入の涌井秀章

 今季のロッテの魅力は、例年にない選手層の厚さだ。適材適所の補強が、効力を発揮する形になっている。昨年、ウイークポイントだった先発投手の駒不足は、FA加入の涌井と新人の石川が埋める。故障明けのグライシンガーを計算から外し、西野をリリーフにする余裕も生まれた。

 野手陣も競争が激しい。クルーズの加入で根元と鈴木の二遊間も絶対的ではなくなった。新人の井上が非凡な打撃センスを見せることで、井口らベテラン陣も引き締まった。一塁手とDHは激戦区になった。12球団トップクラスの外野陣の競争も相変わらず。そして、里崎の後継者として、新人の吉田が頭角を現しつつあるのも朗報だ。

 伊東監督は「いいものを優先して使う。結果を出してる選手に、経験者もルーキーも変わりはない」という。実力至上主義がうたえる戦力が整ったということだ。

ロッテ担当記者

竹内智信(たけうち・とものぶ)
竹内智信(たけうち・とものぶ)
 97年入社。埼玉県浦和市(現さいたま市)出身。幼少期から、ロッテ浦和工場のチョコレートのにおいをかいで育った。野球では日本ハム、ヤクルト、巨人などを担当。


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